34人が本棚に入れています
本棚に追加
その日から私の日常は変わった。
ただ、淡々とやるべきことを過ごしていた放課後が少しづつ変わっていった。
具体的に言うと樹と一緒に学食でご飯を食べる時間が増えたのだ。
授業の相談のほかに樹は自分のことを語った。
樹は楽しそうにアカペラサークルの活動について語ってくれたのだ。
私が無駄だと切り捨てていた人との繋がりをとても大切そうに語る樹を見ていると私の知らない樹の顔がたくさんあると思うとなんだかもやもやした。
少しづつ彼のことが知りたくなっていた。毎朝見てた女児アニメの続きが気になるように。
樹はよくバイトの愚痴を話していた。最初のうちはそこまでしてなにを欲しがるんだろうと疑問に感じたものだ。ただ話しているうちにその疑問は憧れに変わっていった。
彼は私の知らない世界を彼は知っている。いや、知ろうとしているのだ。
私が無駄だと切り捨ててきたものに意味をもたらそうとしているのに気付いた。
私のモノクロの世界じゃない色鮮やかな世界を彼は感じている。
まるでアイドルのように彼が遠く感じた。
何気ない授業の会話も樹の話す間の取り方、心地よいリズムを通すと落語のように話にオチが付く。
彼の何ともない話でお腹がいたくなるほど笑う日が増えていった。
彼はまるで芸人のように身近になっていった。
それらの感情をまとめて恋と呼ぶことは私はまだ知らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!