テレビの中の君

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心臓があまりに激しく動き出すから発作の前兆かと一瞬思ってしまうくらいに動揺していた。 目の前にいるのは、あの拓海のはずだ。 でも、違う。全く違う。 怒りを孕んだ目を向けてくる彼は、今までの彼じゃなかった。 私の知る彼ではない。 香水とも違う爽やかな香りが鼻を掠めて思わず唾をのみこんだ。 「いつまでも弟って認識でいんのやめてくれない?」 「…あ、ごめん」 声が掠れて震える。動揺が彼にも伝わったかもしれない。 こういう時、演技を普段からしていたら”違う自分”を演じることが出来るのだろうか。動揺も隠すことが出来るのだろうか。 「じゃあ、宣言します」 「はい…」 「男って認識してくれるまで、沙月のこと追いかけ回す」 「…え?何それ、追いかけるって…」 「そのままだよ。俺今までめちゃくちゃ我慢して指一本触れないできた。それは沙月が大切だから」 「…」 ありがとう、と感謝するのもまた違うけど、そのせいで私は彼の気持ちに一切気づかなかった。 「でもやめた。これからは我慢しないでいく」 「いや、我慢してよ。だって、それじゃ…―」 「もう終わりだよ。今までの関係は」 抑えのきいた、艶のある声に私は息を呑んだ。 「終わり」 再度繰り返されたその言葉は私の頭の中で何度も何度も再生された。
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