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⑩
「つまり、ボスは好きを誤解していて自分も言わなかったし、雅貴くんはもう知られていると思いこんでいて、すれ違っていたのがやっと両思いだということが分かったと……」
「………改めてそう言われると恥ずかしいですけど、そういうことです」
きゃー私そういう話大好きとパソコンを叩きながら綾子は興奮ぎみに声を上げた。
もっと聞かせて最初からと言う綾子に、こんなことを話していて仕事は大丈夫なのか心配になってきた。
「今週は暇なのよ。先週はスケジュールが立て込んでいてバタバタだったけど、大きな仕事も終わったし、雅貴くんに仕事教えるのにちょうどいいわ。あっ会社では藤田くんね」
山崎の件はとりあえず本人が入院中なので、体調が戻り次第話し合うことになったらしい。もともと、あいつが盗んだ金なので当たり前の話なのだが。
俺は晴れて軟禁生活からの解放されたわけだが、瑛士とのあの部屋での生活は続いている。
綾子の勧めもあって、瑛士の会社で働き始めることになった。
今は秘書課で綾子の下で働いている。
秘書室には他にも2名いるが、今日は二人とも休みを取っていて、朝からずっと綾子に俺のことや瑛士との話を根掘り葉掘り聞かれていた。
「今日総務の子に新しく入った王子様はどんな人なのかしつこく聞かれたわ」
突然変な呼び方をされて、俺は飲んでいたお茶が変なところに入ってゴホゴホとむせた。
「なっ…なんですか……王子ってそれ」
「あら、藤田くんは今や社内の注目の的よ。美人秘書とか美貌の王子とか色々言われているわ。女の子達はきゃーきゃー言っているし、実は営業の男の子にも数名……」
「いや、女の子は嬉しいけど男は勘弁ですよ」
女の子にモテるのは慣れているが、最近はなぜか男にも声をかけられるようになってしまった。
上から下まで瑛士の選んだコーディネートしたスーツでキメているからか、綾子には好評だが変な色気が出てしまっているのかもしれない。
「こら、女にモテて喜ぶな!男とは視線も合わせるなよ」
いつの間にか音もなく後ろに立っていた瑛士に書類で頭を叩かれた。
いつもどうやって動いているのか分からない。部屋に入ってきたところから見ていた綾子は、わざと教えてくれなかったらしい。ニヤニヤと笑っていた。
「ボス、それは無理ですよ。目を合わせて挨拶するのは秘書の基本です。嫉妬はベッドの上だけにしてください」
「それで収まらないから困っているんだ。それより玉ノ井、そろそろ出たらどうだ。時間だろう」
まだずいぶん早いんですけど、ほどほどにしてくださいよと言いながら、追いたてられるように綾子は外回りに行ってしまった。
「……雅貴、おいで」
二人きりになったとたん、瑛士は耳元で囁いてきた。
その囁きで体がうずいてしまう俺は、十分従順なペットだと思うのだ。
ギシギシと音を立てて社長室の立派なソファーが揺れていた。
少しでも声を抑えたくてハンカチを口に入れていたのに、瑛士につまらないと言われて取り上げられてしまった。
「だめだって……、俺……声おおき…い……、あぁ!」
瑛士は俺を下から貫いて、はだけた胸元に舌を這わせながらだめだと言った。
瑛士を見下ろす体位なのに、ちっとも優位に立っている気がしない。繋がりが深くなるので、気持ち良すぎて足に力が入らない。結局瑛士にいいように揺さぶられていた。
「王子だかお姫様だか知らないが、みんなに聞かせてやればいい。雅貴は社長の飼い猫だって教えてやるんだ」
「やぁ……だめ……そん…なぁぁ、恥ずかし……くて、しごと……でき…な……あっあぁんん……」
瑛士に下からガンガンと突かれて、俺は我慢できずに声を上げてしまった。もし誰か来て聞かれていたら、どんな顔をして歩けばいいのか分からなかった。
「俺が好きなんだろ、雅貴。ちゃんと言えよ」
「んんっ……すきぃ……」
すぐ漏らすからということで、俺はゴムを付けられていた。揺さぶられる度に俺のアソコも窮屈そうに揺れていた。
「全然足りないな。ほらもっと声を出して、たくさん言うんだ。そしたらナカにたくさん出してあげるよ」
繋がったまま持ち上げられて、デスクの上に仰向けで乗せられた。もっといっぱい欲しいのは俺も一緒だ。気絶するくらい突いて欲しいのに、瑛士はゆるゆると腰を動かすだけで、もどかしくてたまらない状態だった。
「すき……、瑛士好きだよ……大好き……だ…から……はやく……きて……もっと……」
最近焦らされると今までが嘘のように、俺はすぐ泣いてしまうようになってしまった。
目尻からぽろぽろと落ちたものを見ると、瑛士は興奮するようでこちらも歯止めがきかない。
眼球まで捕らえられたように舐めつくされて、瑛士はやっと欲しいものをくれた。
壊れるんじゃないかと思うくらい、ガンガンと腰を打ち付けてくる。その痛いくらいの快感で俺は意識が飛びそうになりながら喘ぎ続けた。
「あっあっ…いい……きもち……いいよ……はぁ…はぁ…すご……い…」
最近分かったことだが、瑛士は興奮が高まると無言になる。瑛士の荒い息づかいが耳に聞こえてくると、終わりが近づいてくることを知る。
「え…じ……え……、も……もだめ…、おれ……いいっ…イちゃ……あぁ……イク……あああっあああ!!」
俺は絶頂を感じて手を伸ばして瑛士にしがみついた。こうしてイク瞬間が気持ち良くて幸せなのだ。
ナカをぎゅうぎゅうと締めつけたら、お尻の奥で瑛士のモノが震えて熱い飛沫を感じた。
繋がったまま二人で溶けてしまいたいと思える最高の瞬間だった。
□□
「……あぁ、もし綾子さんに聞かれていたら、顔を上げて生きていけない」
甘い時間を終えて、仕事を片付けながら俺がこぼしていたら、瑛士は書類にサインをしながらクスリと笑った。
「玉ノ井はしばらく帰ってこない。俺の本家の方へ行ってもらっているからな」
本家と聞いて俺は日本家屋と強面の男達を想像したが、実際は本家の人間がやっている会社の都心にあるビルの方らしい。
「腹違いだが俺には兄が三人と姉が一人いて、仲は良いが色々とうるさいのが多いんだ。今回も雅貴の話を聞きつけたら雅貴を寄越せとうるさく言われてね。だから玉ノ井に行ってもらった。特に次男の話は長いから、俺の愚痴でも聞かされて玉ノ井は遅くなるだろうな」
綾子には悪いがあの声が聞かれていなかったのはホッとした。同時に瑛士の兄弟の話に興味を持ってしまった。
「瑛士はお兄さんと、お姉さんがいるのか。会ってみたいなぁ。お兄さん達はちょっと怖いからあれだけど……お姉さんには会いたい!絶対美人だよな、和服の似合う色っぽい感じの!」
「………絶対だめだ」
即却下されて、えーなんでいいだろと言った俺に瑛士は、まただめだと言って二回も断られた。
「雅貴が考えているような可愛いものじゃないよ。あいつらは化け物と珍獣の集まりだからな。猫がふらふら近寄って行ったら、頭からバリバリ食べられるぞ」
瑛士に言われると冗談とは思えなかったので、俺は分かりましたと言って大人しくしておくことにした。
いくら巨乳の和服美人でも、肉食獣の化け物はちょっと遠慮したいと思ったのだ。
「……それより、明日は休みだろう。今日は帰りに出掛けるぞ」
「えっ……あ、うん。どこへ行くの?」
普段忙しい瑛士は休みの日は家でまったりすることが多かったので、久しぶりのお出掛けだと俺は一気に気分が上がった。
「この前行った遊園地だ」
「え!?また?……瑛士何気に気に入ったのかよ」
てっきり初遊園地にハマってしまったのかと思ったが、瑛士はまた観覧車に乗ろうと言い出した。
なぜ観覧車なのかと不思議そうな顔をした俺に向けて、瑛士は手を伸ばしてきた。
わしゃわしゃと髪を撫でて、優しく頬に触れてきた。
「雅貴は高いところが好きだから、観覧車が好きなんだろう。でも悲しい思い出があるみたいだったから。それを俺が楽しい思い出に塗り替えたい」
突然胸の奥に触れてきた瑛士に、俺は驚いて言葉が出なかった。
この前観覧車に乗った後、泣きじゃくていたが理由は聞かれなかった。その後バタバタしていたので、すっかり忘れているかと思っていたが、瑛士はその時のことを覚えていたらしい。
「俺は雅貴のことを傷つけてきた奴らとは違う。ちゃんとたっぷり愛を与えて、ぶくぶくに太らせるつもりだ。優秀な飼い主だからな」
「ははっ…、ぶくぶくは嫌だな…」
上手く笑ったつもりが、涙で上ずった声になってしまった。
ぽろぽろと泣く俺を瑛士は笑って抱きしめてくれた。楽しい話ではないが、瑛士には自分のことをもっと知ってもらいたいし、瑛士のことももっと知りたいと思った。
「じゃ…あの船にも乗ろうよ?」
「それは乗らない」
それだけはだめだと拒否されて、ムクれた俺の頬を掴んで変な顔だと瑛士は笑った。
ツイてないことの連続だったあの日、俺は最後に最高の相手と出会えた。
まさか、女タラシの女好きだった自分の最愛の相手が男だとは、人生とは何が起こるか分からない。
でももう瑛士以上の相手と出会うことはないと思う。カッコ良くて、いじわるで、優しくて、時々傲慢で甘い、最高の飼い主であり恋人だ。
この後、観覧車の頂上で小さい箱を渡されて、悲しい思い出は見事に輝く色に塗り替えられるのだが、それは甘すぎるので語らないでおこう。
中身が指輪なのか首輪なのかというのも、二人だけの秘密である。
□完□
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