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③
どれくらい経ったのだろう、10分か20分か……、バタバタという足音はやっと聞こえなくなくなった。
しかし、その代わりなのか、ゾクゾクと寒気がしてきた。追いつめられた草食動物みたいに、誰かに補食されてしまうような、得たいの知れない恐怖がわき上がってきた。
なぜなら、コツコツという靴音が響いているのだ。
それは遠くにあった時からやけに耳に響いていて、だんだん確実に近づいて来るのを肌で感じるのだ。
複数ではない。一人の靴音なのに、なぜだか耳に響いていて、ゾクゾクと寒気がするのだ。
「逃げている者というのは必死だ。最善の逃げ道を探して頭を働かせる」
靴音だけではなく声が聞こえた。その低音の響きが体に染み込むように聞こえて、俺はビクリと肩を揺らした。
「しかし、追うものは冷静だ。逃げる者の一歩二歩先を読める。例えば人通りの多い場所に向かって走り、逃げ切れないと感じ始めたら、身を隠せそうなところを探す」
靴音はすぐそこまで来ていた。そしてピタリと止まった。
「そう、こんな路地裏のゴミがたまっているようなところは最適だよね。そう思わないかい?」
ハイそうですねと答えるわけがない。反対側に走って逃げれるかと目線を向けた。
「ああ、あちら側にはすでに配置済みだよ。一か八か挑んでみる自信があるならいいけど…」
カツカツと音を鳴らしながら、それはゴミを避けて回り込んできた。もう逃げ場などない。完全に終わったと俺は絶望の目をしながら顔を上げた。
目の前に立っていたのは背の高い男だった。上等なスーツに身を包み、俺を見下ろしていた。
黒々とした髪は片方が目にかかるくらい長く、片方は後ろに流してある。
女が好きそうな外国人を思わせる整った甘い顔立ちだが、やけに鋭い目をしていてアンバランスな感じが印象的だった。
「……おや、どんな手負いの獣かと思えば、毛並みの良い猫じゃないか……。薄汚くて臭いけど綺麗にすればそれなりになるね」
「……誰だよ、アンタ……」
「アンタと呼ばれるのは心外だな……。君のご主人様なのに」
「……はっ、変態かよ……」
男は俺の前に膝をつくと、ニヤニヤと笑いながらいきなり胸ぐらを掴んできた。その力強さに驚いて全身は硬直状態で動けなくなった。
「たまには躾のなっていない猫もいいね。俺が可愛がってあげようか…」
「…フザけんな!誰が男なんかに……!…んっあっ……」
牙をむいたつもりが、なぜか触れられたところに痺れるような甘い感覚を感じて変な声が出てしまった。熱は体を駆け巡りその中心である自分のソコがぐんぐんと質量を増していく。ありえない事態に顔が赤くなり頭は真っ白になった。
「………ん?ズボンが窮屈そうになっているよ。薬を入れられたの?可哀想に…誰かに悪戯されたみたいだね」
「はぁっ…ああん!なっ…なんだよ……これ……」
男が本当に猫にじゃれるみたいに、顎をくすぐってきたので、また変な声が出てしまった。
「ウチの客が持ち込んで没収したやつを、誰かが君に入れたんだろうな。さて、どうしようか……」
「入れたって…なっ………うわぁ!!」
なんと細身に見えて力があるらしく、男は俺を肩に担ぎ上げてしまった。
暴れて下りようとしたのだが、体は恐ろしいくらい力が入らない。ぐったりとして、代わりにドクドクと心臓が壊れそうなくらい揺れ出した。
「は…離せ……クソ…この……」
俺の言葉に可愛いねと笑って、男は鼻唄を歌いながら、そのまま路地を抜けて通りに出ていった。
「角龍さん!こんなことになって、申し訳ございません!」
「言い訳はいいよ。後は滝澤に伝えて今日の予定はなしだから」
「はい…あの、どちらへ?」
「家だ。これを可愛がるから連絡しないでね。あっ、勝手に薬を使ったやつを調べておいて。言うことを聞かないやつは嫌いなんだ」
この男の言葉に分かりましたと言って、屈強な男達がバタバタと慌てて動き出した。
どうやらそれなりに力があるやつらしい。話が分かるかもという期待があるが、沸騰しそうなくらい熱くなってきた頭は思考力を奪っていく。
程なくして車が横付けされ、中に押し込まれた。角龍と呼ばれた男はのんきに俺の隣に座って、あろうことかその手を俺の股間に乗せてきた。
「だっ…はははぅぅ!!…ん…で、…んなとこ…手を乗せんな……!」
「目の前に立ち上がっているモノがあれば触らないのは失礼かなと思って……しかし、効果抜群だね。君何歳?」
「……にじゅう…ご」
「もう少し若いと思ったけど、まぁその年齢なら痛いくらいに効くんじゃない?多分もっと効いてくると気が狂いそうに……」
「ひっ…うっ……嘘……」
今でさえアソコがパンパンになって爆発しそうになっているのだ。これ以上の強すぎる快感は恐怖でしかない。
「だから、大丈夫。今日は俺が可愛がってあげるから」
「んっ……くくっ」
角龍が耳元で囁いてふぅと息をかけられた。そんな些細な刺激で俺のアソコはぶるりと揺れて先走りが出てしまった。
「ところで、君は山崎の紹介だったね。山崎にはずいぶんと損害を受けたからね。その分稼いでくれないと困るんだよ」
「はっ…なん……だよ、それ……」
「あれ?聞いてないの?客からの売上げをポケットに入れてさ、使い込んでくれたんだよ。まぁ100万くらいだけど、体で返してもらおうと思っていたら代わりを連れてくるからって話で……」
「ふぁ……や……やめ……ああ!」
喋りながら角龍は俺のズボンを寛げて、中から破裂しそうなくらい大きくなったぺニスを取り出した。
すでにグショグショに濡れていて、それを遠慮なくぎゅと掴まれた。
「山崎の話では、男とのセックス大好きの淫乱、誰とでも寝る尻軽君で、山崎のことが好きだから代わりに稼いでくれるって話だったけど……違う?」
最悪だった。山崎は自分の代わりになるカモを探していたのだ。それにまんまと引っかかってしまった自分のバカさ加減に悲しくなった。
「ちが……だ…ま……されたんだ……、おとこ…なんて…しらな……、女の子…しか……」
「それ…本当かよ?山崎に騙されるとか、それがもう信じられないんだけど……」
自分だってなぜあんな話に乗せられてしまったのか、今考えると信じられないのだ。それを他人が信じられるはずがない。何を言っても分かってもらえないと絶望の気持ちしかなかった。
「…まぁそれは、体に聞いてみるしかないか…」
「んぁああ!…あ…あ…」
角龍は握っていた俺のペニスをいきなりガシガシと擦り始めた。
そんな荒い扱いであるのに、先走りでグショグショになっていたソレは痺れるくらい強烈な快感で、俺はあられもない声を上げて今にも達しそうになってしまう。
「……うそ…だ、俺が……こんなに……早く…、しか…も…おっ……おとこなんかに……!!」
「あれ?結構自信あるタイプだった?そうだね、早漏もいいとこだよ。男に触られてちんこグショグショにしちゃって、ほらパンパンで脈打ってるね。早くイキたくてビクビクしてる。ねぇ……ほら、男の手でイカされるんだよ」
「いや……いやだぁ……イキたくない!いやぁ……」
「ふっ…プライドの高い男は嫌いじゃない。そのちっぽけなプライドをへし折るのは思ったより快感……」
薬で倍増された快感は女の子とのセックスで得られる快感とは比べ物にならなかった。
頭の中は射精することしか考えられない。皮膚は敏感になって車の揺れだけでも声を上げそうになる。
しかしほんの少しだけ残されたプライドが、男にイカされるという事実を受け入れられなくて、必死に拒んでいた。
そこは最後の防波堤で、突破されたら自分をなくしてしまう恐怖を感じていたのだ。
この角龍という男はそんな俺を見て愉しそうな顔をして笑っていた。
やけに鋭い目はもっと研ぎ澄まされて剥き出しの刃のように尖って俺を突き刺してきた。
まさかのその視線の強さに快感を感じてしまい、思わず腰が揺れてしまった。
「ほら…我慢しないで、落ちておいて……」
その悪魔の甘い誘惑に耐えきれるほど、俺のプライドはたいしたものではなかった。
「だ…め……ぁ!………でっちゃ…あっ……くっううぁあああ!!!」
角龍の巧みな手の動きに、言われた通りプライドをへし折られて俺はびゅうびゅうと白濁を飛ばしながら達した。
「あーあー、いっぱい出たね。ほら綺麗にして……」
達してもまだ終わらない快感と熱はやはり通常の状態ではなかった。荒い息をはきながら、ぼんやりとした俺の口元に、自分の出した精液まみれの角龍の手をピチャリとつけられた。
「フ…ザけんな……、誰がそんな…!!」
拒否して顔をそむけたが、角龍は追いかけてきてその手を俺の口にねじ込んできた。
「ぐっ…がはっ……んっっ……がごごごっ」
「同じ事を言わせるな、俺が舐めろと言ったらそれに従うんだ」
今までニヤついていたのが嘘のような低くて強い口調に、噛みついてやろうかと思っていた口が痺れたように動かなくなった。
おずおずと見上げると、角龍の鋭い瞳と目が合った。黒々としたした瞳の中に鮮やかな赤が見えた気がした。それは恐ろしくて美しく見えた。
自分でも信じられないが、俺は舌を出して角龍の指をペロリと舐めた。
苦くて青臭い味が口の中に広がる。もちろん自分で出したものを自分で舐めるなんてことは初めてだった。
なぜこんなバカみたいなことをしなくてはいけないのか理解できない。
けれど、すでにプライドは折られて守るものもない。そして、言われた通りに舐めだすと、全て綺麗にしないと気がすまなくなった。
大きな手全体に広がったソレを丁寧に舌を這わせて舐め取っていく。びちゃびちゃと音を立てて夢中で舐めていると、本当に猫になったなと笑われた。
綺麗になった手を、もういいと取り上げられて、俺は名残惜しい気持ちになって角龍を見上げた。
耳元でよく出来たねと囁かれて、体は蕩けそうな快感で痺れた。自分にこんな感覚が存在したのかと、心のどこかでもう一人の自分が驚きながら立ち尽くしているようだった。
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