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昨日と同じ時刻、同じ場所に優希を見つけて、要人はひとまず安心した。
返事どころか、最悪その場に来てくれないかもしれない、とも考えていたのだ。
逃げられるより、ずっとよかった。
たとえ、色よい返事が聞けないにしても。
「昨日の返事、だけど」
要人がそう切り出すと、どきり、と優希の肩が震えた。
(ごめん、優希)
きっと昨日は眠れなかったに違いない。
俺の言葉で心が乱れて、頭がいっぱいだったに違いない。
そして、優希の唇が動いた。
「要人、僕は」
待って、と要人は優希の言葉を遮った。
「言葉で聞くのが、怖い。これまで散々、言葉で別れを告げられてきたから」
そして、要人は両手を前に差し出した。
「もしOKなら、この手に触れて」
NOの場合はどうするか、を言わない要人。
ずるい。
ずるいよ、要人。
それでも、魅入られたように腕が上がってゆく。
伸ばした要人の手に向けて、優希の手が伸びてゆく。
このままこの手を払って、立ち去っても良し。
この手に触れて、握りしめても良し。
ギリギリまで、迷って震えて伸びてゆく優希の手。
ふと、顔を上げた。
要人の髭は、もうきれいに整うまで伸びていた。
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