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そうだ、僕には忘れられない人がいた。
と言ったらまるで映画の台詞だが少し違う。誰を忘れられないのか、肝心な部分にはすっかり靄がかかっていたのだ。
「とーじまさんって、島子?!」
そろいも揃って、忘れていたことさえ忘れていたといった様子だ。あっという間に彼女は囲まれぼやっとしていた僕は輪からはねのけられる。
「なあんだ、お前がよく見てたとーじまか」
酔っ払った友人も思い出したようだ。今回、大して出世もしてない僕が同窓会に出る気になった理由が自分でもわからなかった。今どき時代遅れな仰々しい招待状を受け取ったとき高鳴った鼓動も。間違いない。
島島島子。
彼女に会うために来たんだ。女性たちの盛り上がりが引いてきて彼女と会話を再開したとき、「きれいになったね」とかろうじて放った声は震えていた。
中学三年生で初めて同じクラスになった地味で透明感のある女の子、それが島島島子だった。
一人でいることが多いけど友人がいないわけじゃない。笑えば花が咲くようだった。前髪は眉上で切りそろえられていて、耳より高い位置で一つにきりっと結っていた真面目な優等生。
本当は透島という苗字だけどワケあって学校では使わないと聞いたことがあった。そのワケは校長以外誰も知らないとも。名前が名前だからさぞ苦労しているかと思いきやいじめはなかった。当たり障りのない、穏やかな性格だったからだろう。
島島島子を意識し始めたのは三年生の五月、校外学習あたりだった。
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