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確かに昼間は覚えているんだ。僕は授業の間に彼女の名前と特徴を紙に書いて持ち帰ったり、写真を見つめながら帰ったこともあった。
今日は大丈夫だ、と思っても玄関をくぐる頃には忘れてしまう。クラスメイトに確認の連絡を取ったこともあったが、昼間は島島島子と仲良く話している女子でも夜は皆「知らない」と言う。
「お前とーじまのこと好きなの?」
「は? なんで」
友人の声に反応して教室の端にいた彼女を見ると目が合い、ぷいっと逸らされた。
「ずっと見つめてんだろ」
向こうも気があったりして、なんて続けるから肩を叩く。
「お前は彼女とよろしくやってろ」
写真をあげたこの友人は無事意中の女子と付き合って、余裕があるせいか揶揄ってくる。全くなにが受験を頑張りたいだ。ちゃっかりうまくいきやがって。適当にあしらっているけど残り少ない中学生活に危険が及びそうだとふんで、腹を決めた。
「とーじまさん、ちょっといい?」
放課後、一人で帰ろうとする島島島子に声をかけた。昇降口で靴を履き替えているときだった。
「あ、同じクラスの――」
初めて間近にみた彼女は肌がきれいで柔らかそうで、潮のようなレモンのような香りがした。はっと息をのむ。ふと吹奏楽のチューニングが聞こえて頬が熱いことに気づき、そんな僕を見て彼女は目を泳がせている。
「その、変な話じゃ、ないんだけど」
「帰りながらでもいい?」
ああ、と曖昧に頷き微妙な距離をとりながらそそくさに校門を抜ける。
人が少ない通りに入ると僕たちは自然に歩幅を合わせた。異性と二人、ましてずっと目で追ってきた子と並ぶ。どう話を始めたら良いか分からずに押し黙ったままだ。天気は曇りで話題にしづらい。
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