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資料1:坂井と西木田
「これはどういうことだ!!坂井!!」
ツカツカとヒールを音を立てながら近づき、
【2029年・青山李奈(29)女・死亡
死因:出血性ショック】
そう書かれた写真付の資料の束をテーブルに叩きつけ怒鳴る。
「西木田さん……どうことと言われましても…。事実じゃないッスか。」
坂井と呼ばれた男は、叩きつけられた資料と怒鳴り付けてきた西木田と呼んだ女を交互に見ながら、現実を突きつける。
「事実だ?!彼女とは昨日会ったばかりなんだぞ!!なのに何故彼女が【10年以上】も前に死んだことになっている!!」
「まぁまぁ。落ち着いてくださいよ。西木田さん。そんなにカッカしても、西木田さんの彼女さんは帰ってきませんよ。」
更に怒鳴る西木田を宥める坂井。
「ッ………。」
「ってーか、逆に俺が聞きたいッスよ。青山ちゃん、かなり前に死んだんスよ?なのになぁんで西木田さんと会えるんスか。」
テーブルに足を乗せ、パイプ椅子をグラグラしながら問う。
「それが分かったら、ここにわざわざ来るものか。」
落ち着いた西木田は腕を組み、先程とは打って変わって冷静になっている。それほど西木田にとって大切な人だと分かる。
「んーーーでも、西木田さんみたいな例は他にもあるからなぁ。やっぱ【アイツ】かなぁ…。」
そう言いながら壁の掲示物を横目で眺める。
その目線の先には
【死者蘇し行方不明事件(未解決)】
と大きく書いている。西木田も坂井の目線を追うように目だけを動かす。
「その事件で蘇った死者の姿は、ボロボロの状態だ。昨日の李奈は生きている人間そのものの姿だった。その事件とは関係無いんじゃないか?」
「そうかもねぇ。でも、ある仮説を立てたら納得が行くんスけど。」
「仮説?なんのだ?」
坂井はニヤニヤしながら西木田の方を向き、呟く。
「青山ちゃんがその事件を起こした【張本人】だったら…。」
坂井のその言葉に、西木田の眉がピクッと動く。
「だったら何故自分だけ綺麗に蘇れる?それじゃあ自分が犯人だと言っているようなものだ。」
「もしかしたらの話ッスよ。」
あからさまに苛立っている西木田を見て、坂井は新しい玩具を見つけた子供のように内心ニヤニヤと喜ぶ。
が、『目は口ほどにものを言う』とは言ったものだ。知らず知らずに口元が緩む坂井に苛立ちを覚える西木田。
「兎に角、李奈が犯人だろうがなんだろうが、この事件は視野に入れておけと言うことか?」
「そぉッス♪西木田さん頭硬いから、理解してくれるか心配したッスけど、理解してくれたようで良かったッス♪」
あからさまに煽りに来る坂井に我慢がならなかったのか、顳顬に青筋が立つ。
「煽るのも大概にしろよ、坂井。でなきゃその生意気な口を縫い合わすぞ。」
坂井に一喝入れた西木田は、そのままヒールを高鳴らしながら部屋を出ていった。
「おぉ、怖笑」
と笑う坂井の独り言だけが、静かになった部屋に溶けていった――。
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