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「じゃあさ、早くやろうよ、その思い残したことをさ」
俺が言うと母さんは困ったような顔をした。
「それがねえ、よく覚えていないのよねえ、思い残したこと」
どうやらアロハシャツには思い残したことを忘れる効果もあるらしい。
ヴァカンス中に何を思い残したかを思い出せなければ、そのまま帰るはめになるようだ。
「何それ、帰ってきた意味なくね?」
俺の言葉に、仕方がないでしょ、と母さんは言う。
「ほら、思い残すことがないように頑張って生きた人もいるわけじゃない? 母さんみたいに適当に何も考えず生きた人が、思い残したからってすぐ願いがかなっちゃったら、そんな人たちに悪いって閻魔大王が言うのよ」
そうか、最近はエンディングノートなんかもあるわけだし、そんな人たちから言わせれば確かに不公平なのかもしれない。
「昔から幽霊って、『うらめしや〜』って言うじゃない? あれ、何がうらめしいのか覚えてないのね。だからとりあえず『うらめしや〜』って言うしかないんだわ」
母さんは自分で納得しながら言う。
思い残したことを思い出せず、閻魔大王の所に帰るのも拒んだ場合は、そのままこの世を彷徨うことになるらしい。
「まあ母さんはそんなの嫌だから、その時は思い残したまま帰るけれどね。いや、絶対思い出してみせるわ!」
まあ、母さんがそう言うなら手伝ってやってもいいかなと思う。あの世でアロハシャツを脱げば、また思い残したことが頭に戻って、そのままあの世で過ごすことになるのだろう。それならすっきりさせて帰るにこしたことはない。
「それにね、母さん、あんたに会ったら一つ思い出しちゃったのよ、思い残したこと」
母さんは嬉しそうに言う。
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