思い残したお母さん

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 久しぶりに母さんと過ごしていると、子どものころを思い出した。  両親はどちらも高校教師で、父さんは社会、母さんは体育の先生だった。  母さんはクラブ顧問も受け持っていたから、帰るのは父さんよりも遅かったと思う。  父さんが帰ってくると、ばあちゃんは、 「おかえりなさい。お疲れ様」 と、出迎えた。  母さんが帰ってくると、ばあちゃんは、 「おかえりなさい、遅かったわね」 と、出迎えた。  父さんは「ただいま、飯」とか言って、そのままソファーに座る。  母さんは「いつもすみません、後は私が」と言って、エプロンをつけて台所にまわった。  今でこそ共働きは当たり前だけれど、母さんの時代はまだ珍しかった。きっと大変だったと思う。  ばあちゃんにも悪気があるわけではなかったし、俺は「おかえり」と迎えてくれるばあちゃんが大好きだった。感謝もしてる。  でも母さんはどうだったのだろう。
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