思い残したお母さん

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 朝起きると、母さんが弁当を作っていた。 「母さん、いいのに、ゆっくりしてて」 と言ってから、あ、母さんは幽霊だから仕事に行かなくてもいいのか、と、変なことを思う。  それにしても母さん、料理なんてできるのだろうか。幽霊ってすり抜けちゃうイメージだし、調理器具とか持てないんじゃ……  そんな俺の気持ちがわかったのか、母さんは菜箸を握って見せる。 「えっへん。母さん、300グラムまでオッケーなのよ。平均150グラムらしいから、これってすごいことなのよ」 俺がまだ意味がわからずに首をかしげていると、 「ほら、ポルターガイストよ、ポルターガイスト」 と、母さんは自慢そうに言って笑った。  つまり、体育教師だった母さんは幽霊にしては力持ちらしく、300グラムまでの物なら持ち上げられるらしいのだ。  冷蔵庫を開けるのは意外と力がいるようで、俺が手伝った。それからフライパンも持てないみたい。  結局、二人でキッチンに立つことになったけれど、それはそれで楽しかった。 「母さんの作る弁当、残り物ばっかりだったでしょ? あの、キャラ弁って言うのかしら。作ってみたかったのよね」  高校の三年間、母さんはずっと俺に弁当を作ってくれていた。  確かに晩ごはんの残り物が多い茶色い弁当だったけれど、俺は別にそれでよかったんだけどな。  ウインナーで宇宙人を作ったり、卵焼きでハートを作ったり、ハムで花を作ったりして、三十歳の俺が食べるにしては可愛すぎる弁当が出来上がったけれど、母さんは満足そうだった。 「母さんね、栄太郎にお母さんらしいこと何もできなかったなって思ってたの」  母さんは弁当の袋を結びながら言う。 「だから、心残りは『お母さんらしいことをすること』なのかもしれない。はいこれ、お弁当」  持ち上げるのは無理だったみたいで、お弁当を優しく指差す。  そうしたらまた花びらが数枚散って、レイは幾分か短くなった。  レイはおヘソの辺りまでになっていて、母さんにぴったり似合っていた。
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