思い残したお母さん

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 次の日は休日で仕事も休みだったので、二人で出掛けてみることにした。  普通なら、三十にもなってアロハシャツを着た母さんと二人で出掛けるなんて罰ゲームでしかないような状況だけれど、幽霊アロハ母さんはみんなには見えないみたいだから平気だった。 「栄太郎、見て」  ニヤっと悪だくみの顔をした母さんは変顔をして、怖そうな男の人の前に飛び出す。 「うわ、やめ……」  言いかけた俺の目の前で、母さんは変顔のまま男の人にすうっと通り抜けられた。  反対に俺の方が変な目で見られたじゃないか、まったく。  変顔&通り抜けられ遊びが気に入ったのか、母さんはいろんな人にそれを繰り返して遊んでいた。まあ、楽しいならいいけれど……。    しばらくすると俺は、母さんが時々、誰もいない方を見て手を振ったりガッツポーズをしたりしているのに気づく。 「何してんの?」 「ああ、アロハシャツのね、お仲間がいるのよ」  どうやら母さんは、同じくアロハシャツを着て『思い残し』を探している仲間と励まし合っている様子だ。俺には母さんしか見えないけれど、他にも母さんと同じような人がいるんだなと思う。  一人だけ俺にも見えるアロハシャツのおじさんにも間違ってガッツポーズをして、母さんはそのまま通り抜けられていた。 「母さん、今まで仕事ばかりだったからさ、あんたとこうやってお出掛けしたこともなかったわよねえ。いいものね、息子とお出掛けって」  そう言った母さんの首からまた花びらが散って、レイが短くなる。  ふと見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。  いつだったか、同じような空を見たような……  そう思って考えてみると、そう言えば母さんの葬式の日もこんな空だったと思い出した。  
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