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公園まで歩いて、二人で並んでベンチに座る。
休日の公園にはたくさんの家族連れが来ていて、シャボン玉を吹いたりキャッチボールをしたりして遊んでいた。
母さんのことだから、またこれを見て「栄太郎と遊んでやればよかった」とか思うんだろうか。横目でちらりと母さんの表情を確認する。
母さんは何を考えているのかはわからなかったけれど、嬉しそうな笑顔で家族連れの遊ぶ様子を眺めていた。
俺は気になっていたことを言ってみる。
「母さんの思い残したことってさ、俺からしたら全部、思い残さなくていいことなんだけど」
「え?」
母さんは驚いた様子で俺を見る。
「だってさ、『おかえり』は、ばあちゃんにもらってたわけだし、仕事で遅かったんだから仕方ないだろ? 俺は家に母さんがいなくても寂しくなんかなかったし、そうやって頑張ってる母さんが自慢だったんだから」
母さんは口をぽかんと開けて聞いている。
「弁当だって、俺からしたら茶色い残り物弁当の方が母さんって感じがするし……むしろ高校の三年間、毎日作ってくれたことの方がすごくね? 忙しいのに早起きしてさ」
そう、そうなんだよ。これは絶対、思い残しなんかじゃないんだ。いや、思い残させちゃいけないんだよ。
俺は今までにないくらい真剣に母さんに向き合う。
「お出掛けなんかは、むしろ俺の心残りだよ。親孝行したかったのに早く死んじゃうんだからさ、全く」
黙って俺の話を聞いていた母さんの目に、うっすらと涙が浮かぶ。
俺にも浮かんでいたかもしれないけれど、そんなことはどうでもいいんだ。
「母さんらしいこと何もできなかったって母さんは言うけどさ、俺には今のままでじゅうぶん母さんらしいんだよ。だって、それが俺の母さんなんだから」
そうだ、これは母さんの『思い残し』なんかじゃない。これは、俺が母さんにちゃんと伝えなければいけないことだったんだ。
「だから母さんは全然、思い残さなくていいんだよ。仕事一筋だったけど、俺のことも母さんらしく大事に思ってくれてたんだろ? それはちゃんとわかってるからさ」
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