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小次郎は呆れて武蔵を見た。小次郎のヒートアップがまた始まるなぁと武蔵はダルくなった。
「ほら、お母さん。小次郎にバレたじゃないか~」
武蔵は両手をダランと下ろし、不貞腐れた。
「なにを言うてんの! そんなところでカッコつけんでええねん!」
武蔵の母は武蔵の肩をバンと叩いた。叩かれてよろける武蔵に小次郎は尋ねた。
「武蔵、お前、刀なしで決闘どうするつもりだったんだよ」
小次郎は極力怒りを抑えて話をしようとしたが湧き出て来る感情を抑えきれなかった。それでもフーフー言いながらではあるが、普通の声の大きさで小次郎は武蔵に問いかけた。
「……、これ」
武蔵は握っていた棒切れを小次郎の眼前に差し出した。
「お前、これ……、オール! 舟を漕ぐオールじゃねえか!」
小次郎の怒りが爆発した。決闘に遅れて来るわ、刀は持って来てないわ、世紀の決闘に対する武蔵の意気込みの無さが、小次郎の身を怒りの業火で焼き尽くした。
「お前、決闘ナメんなよ!」
小次郎は今にも武蔵を八つ裂きにしそうな勢いで怒鳴った。
「もう! もうホンマすんません!」
小次郎のあまりの剣幕に焦った武蔵の母が、武蔵に寄り添うように小次郎の前に割り込んだ。
「な? むっちゃんも反省してるもんな? な?」
「ちょ、やめろや!」
小次郎が激高していることよりも、知り合いの前で母親がベタベタしてくることが武蔵には問題だった。武蔵はうっとおしいと言わんばかりに、頭に乗せられた母の手を振り払った。
「もう、あんた! そんなん謝らなアカン時に照れてどないするの!」
さすがに息子ラブな武蔵の母も、今の武蔵のKYさはしっかり叱って教育しないといけないと思った。
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