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頭を下げさせようとする武蔵の母、母親に触られるのが恥ずかしい多感な武蔵、二人の間で小競り合いが始まった。
「なにしてんだよ、お前ら!」
思春期の息子と母親。小次郎は目の前のやり取りがこそばゆくて、うっとおしかった。
「今から決闘! 決闘するんだよ!」
小次郎は目を見開いて二人に怒鳴った。
「ほら、お母さん。もう、用事すんだだろ」
武蔵は肘で小突いて母に向こうに行ってと訴えた。
「じゃあね」
「ほな?」
武蔵の母は後ろ髪をひかれるように時々振り返りながら、決闘場所から少し離れたところまで歩いて行った。
武蔵も遠ざかる母親を、時々照れたように渋い笑顔を見せながら見送った。
そしてある程度、武蔵の母が遠ざかったところで小次郎が
「もう、いいかな?」
と武蔵に確認した。小次郎の声は少し疲れていた。
「うん」
「よし、じゃあ」
小次郎は着物の襟を引っ張って乱れを正した。
「わははは! 遅かったな武蔵! 臆したか!」
今までのことなどなかったかのように、小次郎は声高らかに対決の続きをスタートさせた。
「むっちゃん! 遅刻したこと、ちゃんと謝りや~」
なんで母親って、こんな風に子供の真剣に茶々入れるようなことをするんだろうね? と小次郎はムカついたが、武蔵の遅刻や親子コチョコチョで時間も押していたのでスルーした。
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