おかあさんといっしょ in 巌流島

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 時は一六一二年。佐々木小次郎は巌流島の砂浜に仁王立ち。怒りに顔を硬直させながら宮本武蔵の到着を今か今かと待ちわびるのであった。 「遅い! 此度のこの巌流島での決闘、互いの剣豪の名を懸けた大事な戦いだというのに、武蔵の奴め、まだ来ぬか!」  やがて沖から一艘の小舟。風に舞う木の葉のようにゆらりゆらりと進み、小次郎の待つ巌流島の砂浜へとたどり着いた。小舟からむっくと大男が立ち上がった。小次郎の待ちわびる宮本武蔵その人であった。武蔵はズサリズサリと足音を立てながらゆっくり小次郎の方へ歩を進めた。 「わははは。わははは」  武蔵は小次郎と目が合うと不敵にそして大胆に笑った。 「ついに来たな、武蔵!」  小次郎は体中の血液が一気に沸き立つのを感じた。 「わははは」  高ぶる小次郎を知ってか知らずか、武蔵はなおも不敵に笑う。 「貴様、この世紀の決闘に遅れて来るとは、無礼にもほどがあるぞ!」 「わははは」 「我が刀、備前長船長光の錆びにしてくれるわ!」 「わははは」 「……、武蔵?」 「わは?」  武蔵は不敵な笑顔のまま「どうしたの?」と言わんばかりに小首をかしげた。 「笑いで、笑いで返事すんなよ。いや、お前、遅れてきたんだろ?」  小次郎は世紀の決闘を前にどうにも緊張感に欠けている武蔵にイラついた。 「……」  さっきまでの不敵な恵比寿顔はどこへやら。武蔵はふくれっ面になった。 「大事な決闘だと、あれほど! あれほど言ってたのに……、いや、武蔵、返事しろよ!」
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