武器の国篇

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武器の国篇

 港の国の中心街・シャーラスから東へ2時間ほど車で走れば、ユタットはある。シャーラスと異なり、漁港が多くを占めている街だった。観光客よりも漁師達が多くいる場所と言ってもいいだろう。  とは言え、ユタットでは常に新鮮な魚が手に入るので、人気の観光地となっていた。シャーラスから近いということも拍車をかけている。  そんなユタットにエルマとアーティーが到着したのは正午の少し前。シャーラスとユタットの間は集落もなにもない広い平野だったのだが、野生の魔女が出没することなく、まっすぐに向かうことができた。  小さな街だが、活気づいていた。多くの人で賑わい、あちこちに釣り上がった魚を売り出す露店が並んでいる。中には名前の知らない魚があった。  魚介を扱う店も多く、そこにもたくさんの人だかり。昼食時ということもあり、より一層賑わっているのだろう。  確かに空腹ではあるが、今はそういった店に立ち寄っている場合ではなかった。 「ねぇ、ローレイン何処にいるの?」  辺りを見渡しながら、アーティーは問いかける。多くの人が行き交っており、目的の相手はなかなか見つかりそうにない。  エルマも辺りを見渡してみるが、それらしい影はなかった。 「お前なら見つけられるんじゃないか? ヤーイェの魔力を感じないのか?」 「あ、そっか。うーん、でもこの辺にはいないなぁ……」 「なら向こうまで進んでみるか」  エルマとアーティーは人の波に押されるかのように、街の中を歩く。活気づいた人々の声が飛び交っていた。魚が安いよ、うちのは美味しいよ、新鮮な魚介の料理を作っているよと、客を呼び込む声がひときわ大きい。  新鮮な魚が炭火で焼かれているのを見たアーティーは思わず目を輝かせるが、エルマは彼女の肩を叩いて先へ進むことを促す。確かに美味しそうな料理が並んでいるが、今はそこで時間を使っている場合ではない。 「あいつは要件が済んだらさっさと街を出る奴だからな。もしかしたらこの街にはもう……」 「それだったら困るなぁ……。確かにローレイン、私達がここに来ていることを知らないもんね」  困惑したように息を吐くアーティー。行き交う人がみんな同じ顔に見えてくる。その中にローレインはいないものかと思うのだが。  やはりそれらしき影はない。 「心配するな。今回は会えなくてもまた何処かで会えよう。あいつだって俺達に用がある際には向こうから……」 「あ、エルマ!」  ふとアーティーは声を上げ、遠くを指差す。その方向には何もなく、家々が並んでいるだけだが。  彼女のその言葉にエルマは確信した。 「いたか?」 「ヤーイェの魔力を感じる! あっち!」  アーティーは人の波に逆らうように駆け出す。何人かの人とぶつかってしまう様を見てエルマは思わず溜息を付いた。  なんてそそっかしい奴だ。そう思いつつ、アーティーの後を追った。  数々の露店から外れた道の中へと入る。住宅地となっており、人の波は一気になくなってしまった。レストランも商店も見当たらない。  こんなところにいるのか? いや、こんなところだからいるのか。エルマは何も言わないまま、アーティーについていくだけ。  車が通れないような路地を抜けて、アーティーはひたすらに進んだ。魔力を頼りに進んでいるから、あらゆる道を歩いている形だ。入り組んでいる場所ではなかったから、行き止まりに当たることはなく。 「あ」  路地を抜けた先にあったのは、小高い丘の上。路地を歩きながら坂を登っていたのか。緩やかだったから全く気が付かなかった。  丘の上からは海が一望でき、複数の人がその景色を眺めていた。恋人同士、友達同士、家族連れ……様々な人の中に、  いた。 「ローレインだ!」  アーティーは声を上げ、駆け出す。名前を呼ばれて振り返ったのは、黒い縁の眼鏡をかけた若い青年だった。彼の足元には、一匹の白い大きな犬が。 「あれ、アーティー?」  青年、ローレインは彼女を見、目を瞬かせる。まさかここで会えるとは思っていなかったのだろう。  そしてアーティーの背後にいるエルマの姿にも気づいた。 「エルマ! ちょうど君に会いたかったんだよ!」 「久しいなローレイン。昨日までシャーラスにいたんだが、別の情報屋からお前がここにいると聞いてな」 「情報屋同士のネットワークは凄まじいからね。いやー、会えてよかった。元気そうで何よりだ!」  気さくに会話を繰り広げるエルマとローレインを他所に、アーティーは腰をかがめ、ローレインの足元にいる犬に触れていた。 「ヤーイェ久しぶりー! 最高のもふもふじゃない。ちょっと魔力濃度上がった? そんな感じする!」 「久しいわねアーティー。魔力上がったかしら。余り自覚していなかったのだけど、そうだとしたら嬉しいわね」  白い犬は、流暢に人間の言葉を話した。だがその姿を、アーティーもエルマも、ローレインも気にすることはなく。  さも当たり前のように、三人と一匹は再会を喜んだのだ。
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