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武器の国。その名の通り、武器と防具の生産が盛んな場所である。主に武具の輸出で経済を回しており、戦争に参加しているというよりも戦争に加担している国と言っていいだろう。武器の国にとって全ての国が商売相手であり、敵でも味方でもない。
国が成り立つのは潤沢な資源のおかげだった。他の国では取れない鉱石が多々眠っており、武器の国でないと作れない武器がたくさんある。何度かその資源を求めて武器の国へ侵攻しようと試みた国もいたそうだが、そこにいる魔女と豊富な兵器のおかげで悉く跳ね除けているという。
ある意味、最も強い国と言えるかもしれない。
「武器の国って最後に行ったのいつだっけ?」
「1年近く前、か……。お前と旅をして最初に訪れた国がそこだった。俺は過去に何度も行っているが」
「そういえばそうだったね」
車を走らせながら、エルマとアーティーはそう会話を繰り広げる。
武器の国は金銭さえ支払えば誰でも武器を購入することができる。それ故に魔女狩り屋を営む者にとってはありがたい場所だった。
エルマの相棒であるライフル銃も、使い尽くせば駄目になる。武器の国へ行くのは、ライフ銃の修復と、新たな武器を用意するためでもあった。
「片碧眼の魔女を殺すために、相応の準備をするつもりだ」
「今のライフルもだいぶガタがついちゃってるもんね」
「それに、この後向かうのが雪の国と機械の国だ。装備はしっかり準備しておくべきだろう」
ローレインからの情報を整理すると、片碧眼の魔女は雪の国か機械の国にいるらしい。どちらも閉鎖的な国であり、かつ好戦的だ。特に機械の国はいくつもの国に攻撃を仕掛けており、今も戦争の真っ只中であるという。
そんな国の魔女だ。きっと相当の力を持っていることだろう。
「エルマの国を滅ぼしたのって、雪の国か機械の国だったっけ?」
「いや、俺の国を滅ぼしたのは夕凪の国だ。とは言え、その国も今や他国に攻められてなくなったがな」
魔法科学の国を滅ぼした夕凪の国は、わずか2年で潰えた。元々他国に攻め寄られていた夕凪の国は、対抗策として魔法科学の国の技術を奪おうとしたのだ。結果、滅亡に追いやり、技術や魔女を奪うことに成功しても、結局他国に敵うことはなかった。
夕凪の国が滅んだ際、所持していた魔女はあちこちの国へ持ち去られたと言われている。勿論、片碧眼の魔女も何処かへ。
ただその何処かが分からず、エルマはこうして探し続けていた。既に死んでいるのならばそれでいい。せめてどうしているのか知りたい。
生きているならば、躊躇いなく銃弾を撃ち込もう。そう決めていた。
車は武器の国に向けて一直線に走っていた。港の国から北へ数日。荒野を抜けた先にそれはある。荒野はかつて武器の国に攻め入ろうとした他国と争った跡だという。散々戦ったおかげで、草一つも生えなくなったそうだ。
道中、時折現れる野生の魔女を撃退しつつ、エルマとアーティーは武器の国を目指した。
「見えた、荒野だ」
「あそこを抜けた先ね?」
港の国を出て数日経過し、ようやく荒野の入り口が見えてきた。林を抜けた先に広がった、赤茶色に染まった大地。確かに草は生えておらず、乾いた地面がそこにあるだけだ。
目を凝らしても同じ景色しか続いていない。武器の国はまだもう少し先にあるらしい。
「前に来た時と全然変わってないね!」
「1年少しで緑が生えないだろう。いや、一生生えないか。魔女の魔力がこの大地を枯らせたのだろうな」
岩がごろごろと転がっている大地を横目に、エルマはアクセルを踏む。荒野とは言え、武器の国に続いている場所なので道は舗装されていた。タイヤへの負担も少なく、パンクする心配もない。
荒野に入れば数時間で武器の国へ辿り着けよう。あともう少しだ。
「街に着いたら美味しいもの食べたい……。お肉、お肉がいい」
「俺は酒だ」
「あとアイス……え?」
椅子の背に体重を預けるように座っていたアーティーは、ふと何かに気づいて体を起こす。驚いたかのように目を瞬かせていた。
「どうした?」
「エルマ、あっち! 魔女の気配がする!」
アーティーが指差したのは舗装された道より少し外れた西側。そこには何も見えないが、きっとそう遠くない場所にいるのだろう。
アーティーが感知したのだから間違いない。
「分かった。アーティー、少し揺れるが舌を噛むなよ」
「うん!」
エルマはハンドルを切り、舗装された道から外れた。細かな石を踏んだ車体がガタガタと揺れだす。しかしエルマはアクセルを踏み、車が倒れないようにハンドルをしっかりと握った。
アーティーが指差す方向に向けて走らせる。この何もない荒野に野生の魔女が徘徊しているのは珍しくない。だが、武器の国へ訪れる人を襲わないためにも早々に撃退しなければ。
車体が大きく弾んだ。何か大きな石を踏んでしまったようだ。
「武器の国へ着いたら車の整備もしたいものだな……」
「確かに……。あ、エルマ!」
彼女が指差した方向に、見えた。いくつもの影が。
野生の魔女は1人ではなかったか。ここからだと3人ほど姿が確認できる。何かを取り囲んでいるような……。
まさか。
「人を襲っているのか?」
「まずいよエルマ! 急がなきゃ!」
エルマはアクセルを強く踏み、速度を上げた。どんどんと魔女への距離が縮まっていく。
そして見えた。魔女は3人。そして襲われている人間は2人。内1人は倒れている。最悪の結果になっていないといいが。
「え?」
「あれ?」
2人は思わず声を上げる。魔女に囲まれ、剣を握っている男を見て唖然となった。
車を停めた2人は急いで外へと出た。と同時に、こちらに気づいた魔女達と男が目を向ける。
「……エルマ、アーティー?」
2人を知っているらしい男もまた、同じように呆然としていた。
肩まで伸びた金の髪と、肩を守る防具を身につけた若い男だった。あぁその姿は、以前会った時と変わっていない。
「イーズ、なんでお前が魔女如きに手こずってる……」
「イーズ久しぶり! 加勢するね!」
どうしてこう連続で知り合いに会うのかと呆れるエルマと、喜ぶアーティー。2人は視線を魔女の方へと移し、構えた。
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