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街の明かりがぽつぽつと灯っている。夜の闇に染まりながらも、人々の生きる光が視界に入る。あれ程賑わっていた街だが、夜になると静まり返っていた。
野生の魔女がたくさん出て来ることを恐れて、屋外へ出ることを拒んでいるのかもしれない。だが逆にそれは好都合だった。
魔女の駆除はそう簡単ではない。理性を失って暴走する野生の魔女でも、強い力を持った個体もいる。戦いの最中に民間人が巻き込まれたら大変だ。
数年、魔女狩り屋として仕事をしているが、今まで一度も民間人を巻き込ませたことはない。それはエルマの腕とアーティーの魔力があってこそ。今回の仕事も民間人を巻き込ませず、かつ領主にも怪我を負わせずに終わらせたいものだ。
「……いるか?」
宿屋の屋上に登ったエルマはアーティーに問いかける。屋上は洗濯物を干す場所になっているらしく、ベッドのシーツがたくさん干されていた。
宿屋の主人に素性を明かし、屋上を使わせてくれと言えば、戸惑いつつも了承してくれた。彼も野生の魔女には困惑していたらしく、ぜひ倒して欲しいと声を震わせつつ懇願していた。
誰もが毎日のように蔓延る野生の魔女に苦しんでいる。ホーウォンが正式な依頼人だが、街総出での依頼といっても過言ではないだろう。
「うん。ここから南東のそう遠くないところに2人、そこから西に少し行ったところに1人かな。魔力の量が弱いから、全員野良で間違いないと思う」
屋上の端に立ったアーティーは、両手で複数の弾丸を持ちながら街周辺を見渡す。漂う魔力から野生の魔女を感じ取っているのだろう。
しかし、随分と距離が近い。解き放った後だろうか。
「分かった。俺は南東の2人を倒しに行く。アーティーは西の1人を抑えておいてくれ。トドメは俺がさす」
「分かったわ。まぁこの魔力量だったら私達の敵ではないみたい」
「あとは領主が所有している魔女か」
それがどんな魔女なのかは分からない。野生の魔女をまとめて退治できる程度には強いのだろうが、それでも臆する必要はない。
「恐らくその魔女も野良を狩るために動き出しているだろう。先回りして手柄を奪うぞ」
「OK、任せて」
アーティーは頷くと、エルマの元へと歩み寄る。両手で持っていた弾丸の山を渡した。
「はい、私の魔力たくさん入れておいたわ。まぁ入れなくても、エルマなら簡単に倒せちゃいそうだけど」
「いや、あるのとないのとでは違うからな。いつも助かる」
弾丸を受け取ると、ショットガンにセットする。普通の武器でも魔女を傷つけることができるが、魔力を込めたものならばその威力は増大。
さっさと野生の魔女を仕留めるには、これが都合がいい。
「よし、アーティー。仕事だ。街の人間に魔女だと悟られないように動けよ」
「はーい」
手を上げて返事をしたアーティー。するとその上がった手から小さな風が巻き起こる。彼女の手を中心に、ぐるりぐるりと。
そしてそれをエルマに向けて翳せば、彼の足元に風が巻き起こる。小さな小さな風が、まとわりつくように。
それを確認したエルマは、屋上の端に向かって駆け出し、地を蹴った。真っ逆さまに落ちるかと思いきや、少しだけ体が浮いて、隣の建物の屋根へ。
アーティーが使用した風の魔法。一時的に浮力を上げるものだ。あまり高度な魔力を人間に注入することはよくないので、この程度が限界らしい。
だがそれだけでも十分だ。エルマは浮力を利用して屋根から屋根へ。人の目に触れないように配慮しながら、目的の場所へと向かう。
恐らくアーティーも同じように出発しただろう。彼女が街の人から魔女だと気付かれる前に早く合流しなければ。
南東の方向へとひたすらに駆ける。見下ろすと、行き交う人の姿は疎ら。食事帰りか仕事帰りか……。
それらの景色を見た直後だ。
「うわあああっ!」
「魔女だ!」
悲鳴が聞こえた。叫び声が聞こえた。エルマははっと顔を上げ、その方向を向く。確かに魔女だといった。間違いない。標的は近くにいる。
被害が出る前に止めなければ。
「……あそこか」
エルマは地を蹴り、屋根から大きく飛び上がった。手に持っていたショットガンを構え、前を見据える。
見えた。2人の魔女。どちらも黒く長い髪を靡かせながらゆらゆらと歩いている。アーティーとそう変わらない、少女のような姿だった。
だが、どんな姿であろうと関係はない。
地面に降り立ったエルマは周りを見る。数人の人々が逃げ惑っていた。
「俺は魔女狩り屋だ! 安全な場所に避難しろ!」
魔女狩り屋が現れたことに安堵したのか、人々はよかった! やったぁ! と声を上げながら走っていく。エルマの言われるがままに、魔女から距離を置いていく。
この状況だと、怪我人はいない。そして領主保有の魔女もいない。
今がチャンスだ。
「アァ……アッ……」
言葉を失った魔女2人は、ゆらゆらと動いて何かを話す。しかしそれは言葉にならないもの。エルマの耳に届くわけがない。
「野良の魔女は駆除だ。悪く思うな」
「アアァッ! アアア!」
エルマの言葉は分かるのか、激昂した1人の魔女がエルマに向かって手を翳す。現れるのは、鋭く尖った剣のような。
違う、あれは氷だ。氷の刃だ。
「ウアアアァッ!」
叫びながら魔法を放つ魔女だったが、エルマは地を蹴って躱した。ナイフ程度の小さな刃がそう簡単に刺さる筈もない。
「悪いな、死ね」
被害が及ぶ前に。この街の負を終わらせるために。
エルマは容赦なく引き金を引く。空気が割れる音とともに、速度を上げた弾丸が魔女の額へ。
「ッ……!」
避ける間もなく、魔女は額を撃ち抜かれる。体を仰け反らし、白目をむいたそれは、ゆっくりと地面へと崩れ落ち、
そして、紫色に染まった粒子となって消えていった。
魔力が集まり、人型となった魔女は、死にゆく際に形を失い、魔力の粒子となって飛び散っていく。故に魔女の死体は何一つ残らない。
「アッ、アァァ……」
もう1人の魔女は腰を抜かせた。あっという間に倒された魔女を見て、エルマに臆しているよう。魔法を出す気力もないようで。
随分と弱い野生の魔女だ。きっと駆除しやすいようにわざと弱い魔女ばかりを集めていたのだろう。被害が今まで出なかったのも、大した力を持っていなかったからか。
だがどうであれ、野生の魔女は駆除対象だ。
「貴様らは害獣も同然だ」
怯える魔女に、銃口を向けた。
少女の姿をしていても、憎むべき魔女。国と家族の全てを奪った、許されざるべき魔女。例え彼女があの時関わっていなくとも。
魔女は全て滅ぼすのだ。
そう叫ぶかのように、エルマは引き金を引いた。
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