寿命が見えるあめ

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寿命が見えるあめ

 帰宅したかすみは、寿命が見えるあめの説明書を読んでみる。 『このあめはなめた人が最初に見た人のいのちの長さが見えます。1人分の寿命しか見えません』  真っ赤なあめを光に照らすと、透き通った宝石のようだった。お祭りのときに、りんごあめを食べたかったけれど買ってもらえなかった記憶を思い出す。りんごあめよりずっと小さいあめは偉大な力を持っている。魔法使いになったような気分になったかすみは、おばあちゃんの寿命が気になって仕方なかった。なぜ都市伝説で聞いたという不思議なお店にいってみようと思ったのか。それはかすみの弱さや不安が強かったからだ。家族が死んでしまうのが怖い、失いたくないという気持ちが大きかった。かすみは妹を亡くしていた。だからこそ、家族の中で一番高齢の祖母の寿命を見ようと思ったのだ。  おばあちゃんはとても優しい。生まれた時から同居していたし、お母さんのように厳しいことは言わない。いつもかわいがってくれるやさしい家族がいなくなってしまったら……考えただけで心が苦しい。心の穴が開いた場所に痛みが走るように感じた。  おばあちゃんを探す。いつものいすに座っている。お母さんは台所だ。この部屋には私とおばあちゃんしかいない。その部屋で私はおばあちゃんのほうをじっと見ながら、あめを袋から出し、口に入れた。  とろけていく感じは普通のあめとは違い、砂糖をなめたときの感覚に似ていた。あっという間にあめは溶けてしまった。深い甘さがかすみの舌を包んだ。その瞬間おばあちゃんの頭の上に日付が浮かんだ。『2020、4、10』これは、西暦と月日だろうか。だとしたら、今は4月1日なので、あと10日の命だということだろうか。  意外と近い数字に私の心は凍った。近くなる寿命をなんとか延ばす薬を夕陽屋の少年からもらわないといけない。そう思った瞬間にあめはあっという間に溶けてなくなり、数字は見えなくなった。きっとあのお店に不思議なお菓子や文房具が売っているだろう。幸い、お年玉も使っていないので、貯金がある。かすみは真剣なまなざしで貯金箱を見つめた。  これは、命の取引だ。なんとかしないとおばあちゃんと永遠にお別れになってしまう。かすみは焦る心を隠しながら、明日もたそがれ時にあのお店に行くことを決意した。  知らなかったことを知ってしまったということはいいことばかりではない。知らないから幸せなこともあるのかもしれない。
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