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地下駐車場にはシルバーのBMWが止まっていて、相川の車ではないから鷹崎専務の車だと美鈴は理解した。
「すいません。お手数をおかけします。」
運転席でハンドルを握る鷹崎は不機嫌そうだったが、バックミラーで美鈴を確認すると笑顔で答えてくれた。
あの鷹崎が笑顔で会話してるのを横目でみた相川は解っていたがやはり慣れない。
不機嫌か不機嫌でないか、悪い笑顔ぐらいで甘い笑顔なんて見たことはない。
直接二人でいるところは今回が初めてだし、そりゃあれほど執着しているわけだから当たり前といえば当たり前だが。
「いいや、いいよ。夜の女性の一人歩きは怖いからね。」
先ほどの不機嫌はどこへ行ったんだよ。
なんだそのデレ顔は!
不機嫌の原因のいくつかを解消しておかないと、後で嫌味か嫌味の仕事の嵐か怖いことは確かだ。
「そうそう、一年ぶりかな送るの。」
そうたびたび送ったりする仲ではないというアピールは後の為に欠かせないと相川は思った。
「そうですね。昔はよく送っていただきましたよね。」
何気なく答えた美鈴に相川はそこは触れないでと切実に思った。
相川が何度か美鈴を送っている話と、「美鈴ちゃん」と呼んだことから仲が良いのがわかる。
渡米するときに任せたのだから理解しているつもりだが、自分の知らない美鈴を相川は知っていると思うだけでイライラする。
そんなことを知る由もない美鈴は申し訳なさそうに話題を変えてきた。
「加奈子は千秋さんにご迷惑をおかけしていませんか?もちろん専務にも。」
「千秋は楽しんでるよ、加奈子ちゃん面白いからね。」
「鷹崎には言ってなかったか、秘書課の千秋は俺の彼女ね。」
彼女がいる話は鷹崎にはしてあるが、相手については話していなかった。
「加奈子さんは頑張ってるよ。」
そういうと美鈴は安心しましたと笑顔を向けてくれた。
ああ可愛い!
相川いらねー。
そんなことを考えていたら美鈴のマンションに到着した。
「ありがとうございました。」
そう頭を下げる美鈴。
鷹崎は車を降りて、後部座席のドアをあけて彼女をエスコートしてエントランスまで送っていった。
こんなことまで申し訳ないと恐縮していたが、可愛く手をふりエレベーターに乗り込むのを確認して車に戻ると助手席に移動してきて座る相川がいた。
「お前さ、少し待てないの?」
呆れたように相川は溜息をついた。
「待てない。可愛すぎる。」
真顔で答える鷹崎に相川は厳しい顔をする。
「今動くとダメなのはお前が一番解っているだろう?」
相川が言うのは、美鈴が鷹崎を受け入れるかどうかより、重要なことがあった。
少し冷静になった鷹崎は
「ああ、片付けないといけないゴミがいるし、計画を実行しないとだしな。」
五年前の事件はまだ終わっていない。
少なくてもあいつらを一掃する必要はある。
鷹崎は五年前のことを思い出していた。
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