1110人が本棚に入れています
本棚に追加
意気揚々と加奈子に案内させて専務室に入ってきた町田春香は結城沙耶香より鼻につく匂いがした。
巻いた髪とキーボードを打てるのかという指先のネイル。
二年前に買収した会社の役員の縁故採用で母方の一族は地方であるが不動産を手がけている。
「鷹崎です、町田チーフ契約書ご苦労様です。少し聞きたいのですがいいですか?」
加奈子は姉からも話を聞いていて、何も知らないふりをしろと朝早く専務から専用アプリでメッセージが届いていた。
このやり取りを淡々とこなしている鷹崎のやり取りを黙って見ることにした。
「この箇所です。この言い回しはいつどうやって考えたのですか?」
翻訳の方の英語の言い回しを町田にきく鷹崎。
「ああ、ここもですね。ロースクールで勉強でもしたのですか?」
みるみる顔色が変わる町田の様子を伺いながら、何も言えない彼女に
「この契約書は急ぎでもなんでもないです。一部の役員には急ぎかもしれませんがね。この契約書を持ち出しを指示したのは誰です?」
ゾクッとするような剣呑な光を宿す声と空気に場が圧倒される。
怒鳴るわけでもない。
「答えて下さい。」
その一言で彼女達は経緯を話し出した。
「諏訪部長が佐伯さんのディスクでこの書類を見つけて仕上げてすぐに専務に持って行けと。」
そう結城は焦りながら話す。
「諏訪はこの契約書の会社の親族だと貴女は知っていますか?」
諏訪 蓮は諏訪産業の末息子で業務提携の際に相川が役員として採用して知識が豊富な分野もあり部長として優遇していた。
諏訪産業は業績が悪化しているという報告が鷹崎に上がっていた。
海外取引を失敗したらしくコンプライアンスにも問題があるとも報告があった。
諏訪が悪いわけではないが、どうやら後を継いだ兄が問題と聞く。
闇金からかなりの資金を借りている話も付き合いのある所から情報が入ってきていた。
「知らないようですね~知っていたとしてもどうでもいいですが、それよりこの契約書は貴女が作ったものではないですね?」
町田は焦りながら言い方を変えてきた
「私が作ったわけではありませんがチームで作りました。」
「チームですか。」
町田の様子を見ながら結城沙耶香は背筋が冷たく感じていた。
いい加減なことはこの鷹崎 隼人には通じない。
「そうですか、実はですねこの契約書を遅くまで作成していた方と昨夜お話しましてね、チームですか?」
「佐伯さんが専務に泣きついたのですか?可愛くもないただ背の高いだけの地味な仕事しか取り柄がない部下を上手く使っただけです。何が悪いんですかその契約書も翻訳も完璧なんでしょうだったら問題ないはずです。」
涙目で訴えかける内容は聞くに堪えない内容だった。
肌を刺すような冷たい空気が場を支配する。
「佐伯さんは何も言いませんでしたよ。「お姉ちゃんは泣きついたりしない!
可愛くないですって?」
鷹崎にかぶせるようにキレた加奈子が激高している。
「そこまで、落ち着こうか?」
やれやれという顔をして呑気な声で相川がいつの間にか部屋のドアを開けて入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!