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始まりの場所
車から降りて少し歩いた場所は見たことのある風景で美鈴にとっては、ずっと夢中になっていたバレエを諦めた場所だった。
まさかまたこの場所に来るとも思えなかった美鈴にとって一人では絶対に来ることが無かった場所でも鷹崎が何故ここに連れてきたかったのかは解らないが、ただ一人なら来るのを躊躇う場所なのに彼が一緒なだけで何故か過去の一つを整理するのにいいかとも思えた。
「この場所は・・。」
劇場の前で二人は立ち止まって見上げた。
「ええ、この場所で僕は初めて貴女をみたんですよ。」
「えっ?」
この劇場はよくバレエの発表会で使われていた場所でその何度か演技した一回をたまたま彼が観たのだろうか?
「僕はここで貴女の最期の演技をみたんです、そして一目惚れしたんです。10年以上前ですかね。」
あの演技を観てくれていた・・最後の演技を彼がそう思うだけで心が満たされていゆくような感覚になった。
今日は何も講演していないらしく劇場は施錠されているが、小さなベンチのある公園があった。
「この場所も変わっていないのね。」
なにも変わらない場所で時間だけが過ぎて今ここにいる自分が不思議な感覚だった。
二人は小さなベンチに腰掛けると自然とお互いを見つめ合う形になっていた。
「ええ、僕は15歳の貴女に恋をして随分悩みましたよそうでしょう?23歳の男が15歳の少女に恋をしたなんて自覚するまで時間がかかりました。その当時は犯罪ですしね。」
そう言って鷹崎は自嘲気味に笑った。
「そんな昔から私をご存じだったんですね、あの時が最後でした。でも最後の演技を鷹崎さんが観てくれていたと思うと嬉しいです。」
そういう美鈴に鷹崎は穏やかに言葉を紡ぐように彼女を見つめて言った。
「ゆっくりでかまいません。僕と付き合ってくれませんか?」
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