異世界トリップするおかあさんといっしょ

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異世界トリップするおかあさんといっしょ

「ファッ?」相談員は耳を疑った。母子で転生なんて前代未聞だ。ここは女神組合。異世界転生をプロデュースする女神のギルドだ。この業界にはいろいろなしくじり神様がいる。「ちょっとした手違いで前途ある若者を死なせてしまった。 そのお詫びに新しい人生をうんぬん」というのは建前だ。業務上必要なスキルだ。欠点が利点というのもおかしな話だが転生神がドジを踏まないと転生は始まらない。だが毎度トラックで勇者候補を轢き殺す神様は優秀だ。これとは別に本当にどうしようもない転生を仕掛けてしまう神様がいる。転生事故物件の神とか地雷神と揶揄される神々だ。今回のレアケースも「勘弁してくれよ」と言いたくなる。相談に来た女神が言うには「母娘連れをトラックに轢かせてしまった。親子でダブル転生なんて想定外だわ。どうしましょう」という。どうにかして欲しいのはこっちだ、と相談員は思った。その母娘はというと別室で魂状態のままワアワア泣きじゃくっているという。 「厄介なことにそのお母さん、妊婦だったらしくて」 相談に来た女神は机に突っ伏す。 「神様助けて!」 おめーが神様だろう。相談員は暫く同僚と相談した。 「どうします?匙を投げて門前払いしますか?」 「いや、迷って悪霊にでもなられたら困る」 「しかし親子三代トリプル同時転生なんか本邦初ですよ。しかも胎児、女の胎児、どうやって転生させますか?」 相談員たちが困惑しているとついに駄女神から頭突きを食らった。 「ちょっと何してんだ、やめろ!」 大柄の主任が割って入るが、駄女神は肩まである髪を振り乱し突撃する。 「何が『どうしますか?』よ。ここは女神の悩みなんてどうでもいいのだろ。私が相談に来たのです」 「うるせぇってんだ。聞いてねーよ。神様の癖に転生の一つもできねーのか」 主任がド正論で返した。 女神は諦めたように相談員たちに言った。「転生させるのはいいんで私の方からどうしたもんかと聞いているんですが」 女神は相談員の顔をチラチラ見やった。相談員も気になっていた。 女同士のお願い目線がくるくるループしている。 「貴女、おねがいね」「いいえ、貴女こそ」「私は遠慮するわ。あの子はどうかしら」。 「どうなんだ?」と。結局、相談員は駄女神の提案を了承した。「お願いします」
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