ふりかえる、ふりかえる。

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ふりかえる、ふりかえる。

「ねえねえ、覚えてる?ここで昔、事故があったの」  あれ?と思って私は後ろを振り返った。駅前広場のベンチは、大きな桜の木をぐるりと囲む形で設置されている。私のお気に入りの場所で、毎朝ここでのんびり過ごすのが日課になっているのだ。  振り返った先、ベンチに二人の女性が座っていた。OLか、大学生かといったくらいの年齢の若い二人組だ。多分友達同士とか、会社の同僚といったところなのだろう。二人とも背中を向けていて、当然私の存在など見えていない。自分達の声が、周りに丸聞こえなほど大きいということにも気づいていないのだろう。  髪の短い女性と、髪の長い女性だった。顔が殆ど見えないので、どういった顔立ちなのかもよくわからない。動きからして、話しかけたのは髪の短い方の女性のようだ。 「中学生の頃だっけ。女の子が車に撥ねられて死んじゃったんだよね。トラックのタイヤに巻き込まれてひっどい状態だったって……サヨリ、覚えてない?」 「あー……そういえばあったわね、そんなことも。何?ミコ、怖いの?幽霊とかダメだったっけ?」 「こ、怖かったら悪い!?」 「おー、素直でよろしい」  どうやら髪の短い方の女性はミコ、長い方の女性はサヨリというらしい。会話だけなのでどういう字を書くのかはわからない。やり取りの雰囲気からして、二人は相当仲が良いようだ。  羨ましい限りだ、と私は今は葉が生い茂るばかりの桜の木を見上げて思う。子供の頃から根暗な性格で、いつも教室のボッチ族だった私である。こんな風に土曜日にベンチでお弁当食べながらお喋りするような友達、なんていた記憶がない。学校のお洒落なクラスメートたちとはまるで話が合わなかったし、気も合わなかった。彼女らの話題についていけずに一緒にご飯を食べるグループからそっと離れたら、そのまま孤立してしまったという苦い記憶がある。  この世の中――特に日本という国は、協調性と空気読みスキルがない人間にとことん厳しい。口では、ナンバーワンよりオンリーワン!なんてことを言いながら、結局実情はただオンリーワンなだけの人間にやさしくしてくれる人間などいないものである。  コミュニティに受け入れられるのは、周囲に迎合できる人間か、誰にも負けない才能をもった人間だけなのだ。残念ながら、私はそのどちらも持ち合わせていなかった。ああ、思い出すだけで胸が締め付けられるような気がしてくる。もうずっと昔のことのはずなのに。 「幽霊って、本当にいると思うの。この場所、だいぶ気配は薄れてきているけど……それでも幽霊はいたと思うのね。正確には、この前の道路に」  暇なので、彼女達の会話に聞き耳を立てつつ観察することにする。どうせ、向こうはお話に夢中でこちらを振り返ることもしないのだろうから。 「ずっと道路で轢かれた状態のまま、横たわってたとかじゃないかな。怨念が染みついてる気がするの……」 「あっはっは!怨念とかおもしろー!ミコってそういう人だったっけ?」
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