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「わ、笑いごとじゃないよ!私昔からちょっとだけ霊感があるの。なんかいるなーっのとか、怨念が渦巻いてるなーって気配くらいはわかるんだから。強い霊の場合は、うっすらぼんやり見えることもあるし……!」
「はいはい、わかったわかった」
霊感が強い、と発言する人間には主に三パターンいると私は思っている。一つは、本当に霊感がある人間。一つは霊感があると思い込んでいる人間。もう一つは、霊感があることにしたい人間。残念ながら、自称・霊感もちの大半は後者二つである。幽霊が見える、霊感がある――そう話すことで、普通の人とは違った存在であると思い込むことができるからだ。一種、優越感に浸れるとでも言えばいいだろうか。
人間、誰だって普通の人とは違う“選ばれた存在”だと思いたいものだ。オンリーワン、ナンバーワンだと自負できるような一般的な才能に恵まれない人間ほどそれは顕著だろう。果たして、あのミコという女性はどちらであるのか。
「何?此処に地縛霊がいるとでもいうの?私は全然そんな気配感じないけど?」
愉快な気持ちを隠しきれない。そういった様子で肩を震わせながら、サヨリは言う。それはサヨリが霊感ないからでしょ!とムキになるミコ。
「本当にいるの!気配が薄くなってるってことは多分、恨みつらみはもうだいぶ消えつつあるんだと思うけどさ。それでもまだ地縛霊がいるかもしれないなら、サヨリも気を付けた方がいいって!信号が点滅してる時に無理に渡ろうとしたりしない方がいいよ、ほんと自分が轢かれちゃうかもなんだから!それこそ、ここの交差点ってそういう話もちらほら聞くんだからね、歩いてる途中足を引っ張られて転んで怪我した、とかさあ」
「くっだらなー」
サヨリは派手に髪を掻き上げた。顔は見えないが、肩も首筋もすっきりしているし、色も白い。きっと美人なのだろう。
「もしそんな悪霊なんか本当にいるならさ、私が呪われてないはずないじゃーん?」
「……は?」
「え」
思わず私も小さく声を上げていた。こいつ、まさか何かやらかした張本人なのか。思わずまじまじとその背に視線を送ってしまう私。
「そこ、でしょ?」
サヨリは駅前の交差点を指さし、言った。
「●●中学校のさ、二年生の女子が撥ねられた件でしょ?大型トラックに潰されてぐっちゃぐちゃになったやつ。あれ、ただの事故じゃないのよね、実は」
「どういうこと、サヨリ……」
「あーそっか、ミコには話したことなかったっけ、中二の時はクラス違ったもんね。撥ねられた女子さあ、クラスで一番根暗でウザいやつだったわけ。喋っていても空気読まない発言ばっかりするし、ついてこれない話題だとすーぐ黙るし、ノートに落書きばっかりしてるし。そのくせちょっと絵を褒められると調子に乗るっつー。みんな嫌ってたと思うのよね。ブスだしクサそうだし、みんな避けてた。私だけじゃない」
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