プロローグ 黄金色の瞳

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プロローグ 黄金色の瞳

「侵入者! 監視部から侵入者有りとの報告!」  窓ひとつない無機質な建物内が突然騒がしくなる。 「どこから!? 警備は何をしてる!?」  白衣を着た中年の男が慌てた様子で叫んだ。 「侵入経路、現在地、不明です!三分前に二階北側階段付近の監視カメラに映ったようです」 「……何者だ……。何が目的だ……」  部下からの報告を聞いた白衣の男は呟くと、奥歯を噛み締める。 「くそっ! とにかく捜せ!!」  部下を怒鳴りつけ、机に拳を落とす。その振動で、机の上にあった資料がパラパラと床に落ちた。 ○□○■○○■□○□■○○□ 「捜せ! 出ていった形跡はない! どこかに居るはずだ!」  警備員らしき者たちが見えるだけで数人、あわただしく動いている。  彼らが探している侵入者は物陰に隠れていた。その男は彼らが自分を探している事はわかっていた。このままではいずれ見つかる事も。  窓ひとつない無機質なこの研究所、警備員は青の制服、研究員はほとんど白衣を着ている。対して男は黒のローブにフードを被り、ゴーグルを着用し顔を隠してはいるが、研究所の中ではかなり目立つ。 「……まったく……」  面倒だ。男はそう思いながらため息とともに小さく呟く。白衣を盗って着れば目立たないだろうが、見つけるのも面倒であり、何かあったときにボロが出てしまう可能性もある。  男はそのままの格好で人目を掻い潜って進むこととした。とはいえ、このままでは見つかってしまう上、見つかればやはり面倒な事が起きる。  男は手の中に雷の魔法をこめ、魔法の小さな球をつくる。それを警備員のいる更に向こうの廊下めがけて投げる。  放物線を描いて飛んだ球は、狙ったところで一度跳ねると、ピシャッという高い音と共に弾けて周囲に電撃を飛ばした。この男の得意とする雷魔法[秋花火]だ。威力を抑えたものの、電撃が当たった者は麻痺し、見てしまった者はしばらくは目が見えないだろう。それに今の音に注目が集まる。この間に男は移動する。  五階中央のメイン研究室前。  男は雷魔法で監視カメラを停止させたり、避ける程でもない数人の研究員を気絶させたりしながらここまで来た。男の用事はここにある。 ―― 研究内容、過去の研究資料……。先生、あなたの意志を継ぎます……!  扉の取っ手をつかみ、力を込めて押す。ほんの少し開けた所で、誰もいないことを確認し、中に入る。おそらくこの男が侵入した件の対応で走り回っているんだろう。  好都合だ。男はそう思いながら、置いてあるコンピュータに手を伸ばす。  相当慌てていたのだろうか、研究資料らしきものが床に散らばっている。資料にはどれも『No.1037』と書かれている。 「やっぱりまだ……続いてるんだな……」  男は眉間にシワを寄せ、悲しそうな、複雑そうな表情でぼそりと呟いた。そして、ふと視線を感じて顔をあげた。 「………!」  奥にある巨大な水槽に、人間が入っている。様々な管やコードが頭や体に繋がっている。 「こいつは……まさか……」  男が思わず固唾をのんで見つめていると、水槽の人間の目がゆっくりと開いた。  その瞳は男と同じ、黄金色の瞳をしていた。
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