10−1、6秒間

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「失礼いたします。サラお嬢様。ルカです」 「入って」  ルカは一呼吸置いたあと、ゆっくり扉を開ける。サラと目があう。少しして、サラが驚いた様子でルカの顔をまじまじと見つめ、数秒後、顔をそらした。 「お誕生日おめでとうございます」 「そちらこそ………ところでそれは……誕生日プレゼントかしら……?」 「はい? 申し訳ありませんが、そういったモノはご用意していません。私は従者の身ですから」 「なにそのォ……ッ……髪型………ッ……その……一房よ……ッ…」 「はい?」  ルカが額をイジると、確かに前髪が一房、落ちていた。恐らく移動の際に乱れたのだろう。 「お見苦しいものを、申し訳ありません」 「最高よ………!」 「………は?」 「なんてことしてくれるの、貴方って人は……ッ……」  サラの顔が再びルカに向けられる。紅潮した頬で、うっとりと見つめるサラの表情はなんとも言えぬ艶めかしさを感じさせられる。 「ああ……はんじゃいたい……ッ!」  瞬間、ルカは前髪を再び分け直した。 「アッ……でも…それもステキよ…」  ルカは前髪をいつものように戻そうとした時だった。 「今日の一度目は『その前髪でいて』」  早速か、と思いながらルカは了承せざるを得ない。 「ところでルカ。私、リボン結ぶの、ずっと苦手なのだけれど」 「存じております」 「この結び方じゃ、ダメよね…」  そう言って、サラは自分が結んだ胸元のリボンを指さす。身だしなみの乱れは整えなくてはならない。つまりは結び直せということだ。これは執事としての責務、なのだろか。  ルカは「失礼いたします」と言い、サラの前まで歩み出る。それから片膝を地につけて、もう一度「失礼いたします」と言うと、リボンを一度解く。それから、なるべく触れないように、慎重にリボンを結んでいく。  くすぐったい感触が、頭にやってくる。ちらりと上に目をやると、恍惚とした表情のサラがルカの前髪をいじっていた。  ケイトの謝罪の意味を理解した。
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