鈍足の勝者

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 そこで奮起して、よーし速く走れるようになってやる……と猛練習でも始めれば救いようもあるのだが、僕は逆に意固地になって、死んでも練習などしない、と固く決意してしまった。  スポーツの経験がほとんどないまま大人になり、大手チェーンの家電量販店で働きだした。  もともとパソコンが好きだったから、独学でプログラミングの勉強をしてきたし、パーツを揃えて自作パソコンを組み立てるのも朝飯前。知識と技術を買われ、パソコン関係の販売員の一人となる。  勤め始めて、もう七年だ。仕事にも慣れてきた。  店長や先輩、同僚とも大きなトラブルはなく、アラサー男としては、そこそこの人生を歩んでいる。  友人と呼べる相手は多くもなく少なくもない人数がいて、ときどき遊びに出かけたりもする。  唯一、残念なのは恋人がいない点だ。  職場の二年先輩に、山岸さんという美容機器担当の女性がいる。ちょっと厳しい面もあるけれど、ちゃんと思いやりもある強い人で、ほのかな恋心を抱いている。引っ込み思案な性格の僕に告白する勇気はない。  ひどい運動オンチだというのも、彼女との距離を感じている原因の一つだ。
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