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驚愕のスタジアム
試合の疲れも傷の痛みも忘れ、夢中で走って行った会議室。
中に入った途端、俺の目が、先に来ていた辻先輩と安達先輩を飛び越して、一台の小型テレビに吸い寄せられた。
そこに映し出されていたのは……
「ウソ、北斗? …何で?」
画面の中の光景が信じられず、そんな疑問が口を突いて出ていた。
「あ、吉野! お前なんか聞いてないか?」
振り返った安達先輩が、俺を見てすぐに訊いて来る。けど――
「え、…何をですか?」
「田島か、お前の後輩の事」
「駿? いえ、全然」
「そっか。俺らもさっきテレビつけて驚いたんだ。北斗ってピッチャー出来たっけ?」
不思議そうに首を傾げられても、画面の向こうの現実を受け入れられないのは俺の方だ。
それに気を取られたせいで北斗の事を誤魔化すのも忘れ、うっかり答えてしまった。
「いえ、…昔、少しだけ」
三年の先輩達が、揃って怪訝な表情で俺を見返す。
そんな事にも、全く気付かなかった。
取った帽子で顔を仰ぎ、ユニフォームの肩口で額の汗を拭く。
目深に被り直したその顔が、画面にアップで映る。
「――北斗……」
一人マウンドに立ち、大きく深呼吸する奴を、自然に呼びかけていた。
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