就職活動

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 立花咲の仕事は経理だった。  自分には何もないと思っていたが、大学時代に簿記二級の資格を取得していたことを思い出し、ただ何となく面接を受けてみたところ、幸か不幸か合格になって今に至る。  社長は咲の父親と同じ歳くらいの恰幅のよい人だった。眼鏡の向こうの眼光は柔らかく、穏やかで優しそうな人のように面接の時は思えたのだが、いざ就職してみると、週一の会議では売上の悪い従業員に物凄い雷を落とす鬼だった。  くわばらくわばら。怒られている人たちには悪いけれど、咲は販売担当でなくて良かったと、こっそり思ったりした。  事務所は基本三人体制である。  まずは事務所の実質的なリーダーであり、社長の娘である奥野香澄(おくのかすみ)さん。歳は二十代半ばくらい。  二人目は咲よりも二つ歳上の先輩で、咲の教育係でもある山口紀子(やまぐちのりこ)さん。  そして入社して間もない立花咲を加えての三人だった。  業務は朝の九時から始まり、だいたい夕方五時くらいまで。週一で営業会議がある日はちょっとした資料作りなどがあって午後七時を過ぎる時もあった。  社長と社長の奥さんは夜型人間のようで朝から出社することはまずない。昼くらいから秋葉原にある自分の店舗を見てまわり、そして午後二時を回った頃に事務所に顔を出して仕事を始める。  だから事務所は、午後二時を過ぎた頃からいつも空気が変わって、ピリピリしたムードが漂っていた。
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