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「なぁ、あの時の約束覚えてる?」
それは果たして、何のことだっただろうか。こいつとした約束は数多くあったはずだが、ほとんど守られた試しがない。それだけは覚えている。
「そうだな。お前が破った数々の約束なら覚えているが? 今更、一体どれの話をしようというんだ」
「それは悪かったって。そうじゃなくて、もっと大事なことあっただろ!」
まったく、今日の蓮の話は埒が明かない。酒が入っているからだろうか。いつもここまで回りくどい言い方をするようなやつではないが、どうしたというのだろう。
それに、まだ酔うような量でもないだろうに。現に、長い睫毛に縁取られた瞼はまだその大きな瞳を隠しておらず、耳はおろか、頬や鼻頭に至るまでの赤みも薄い。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「……本当に覚えてないんだな。俺、まだ、フリー、なんだけど?」
蓮はわざとらしく、一言ずつ区切って異議を申し立てた。
フリー。その言葉で、はっと昔の記憶が蘇る。
それは半分、諦めさせるための口実でしかなかったのに、律儀に覚えていたのか。なぜこういうことだけは忘れないんだ。
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