25 夢の終わり

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 いろんなところに電話をかけた。大勢の人たちがやって来て私を慰め、大量の涙を流した。私は一向に涙を流さなかった。大勢が手伝ってくれたことで事務的な作業がスムーズに進み、助かったという思いがあっただけだ。誰かが黒い服を届けてくれて、言われるままに私は着替えた。挨拶も、滞りなく無難に済ませた。白木の棺がある。大きいのと小さいのと、二つの棺が。それが運び出される時にも、私は涙を流さなかった。  なぜって、それはみんな嘘だから。新幹線の中で私が思い描いた、最悪の想像に過ぎないからだ。「こんなことになったら嫌だなあ」という、くだらない想像。現実ではない。現実であるはずがない。現実だったら、こんなにぼんやりとしている訳がない。一部始終は白昼夢のように途切れ途切れで、映りの悪いフイルムの映像のようだった。頭をハンマーで打たれるような、強烈な頭痛が既に始まっていた。  すべてが終わって、私はマンションへ帰った。ドアを開けると、蒼太が走ってきて私の足に飛びついた。 「おかえり!」と蒼太は言った。
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