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地面を蹴るようにして歩く彼女の横を、男は歩調を合わせながら歩くので精一杯だった。
「思えば、君はあの夏から変わってしまった」
男はひとりごとのようにつぶやく。
「大好きだったサークルをやめ、大学にもあまり顔を出さなくなったね」
いつの間にか駅前の大通りから、人気のない河原に来ていた。
「大事にしていた長い髪はばっさり切ったし、服の好みもがらりと変わった。まるで、何かから隠れようとしているかのように……。」
対岸から雲が流れてくる。湿った空気が頬を撫でた。
「そして、あの橋の写真を合う度に見せてくるようになったね」
彼女の歩調が緩み始めた。濁った瞳でまっすぐに前を見据えている。うつろな表情からは、何の感情も読み取れない。
「君は何があったのか、知ってるんだろ?教えてくれないか。あの写真のこと。去年の夏のこと」
女は足を止めた。振り返ったその顔は、怒りとも希望ともつかない様子で奇妙に歪んでいた。
「ほんとうに、いいの……?」
「ああ」
「あなたも、過去を、背負うことになるのよ」
「構わない」
女は河原に腰を下ろした。男もそれに倣う。それを見届けた彼女は、大きく息を吐くと、薄い唇を震わせた。
「私、怖かったの。あなたに真実を知らせることが。真実を知ったら、あなたも一生の罪を背負うことになる。せっかく忘れているのだから、あなたが自然に思い出さない限り、このことは心の中にしまっておくつもりだったの。でも、やっぱり心のどこかでは思い出してほしいと思っていたのね。写真を何度も見せてみた。それでも思い出さないあなたが腹立たしかった。何もかも忘れて生きてるのが憎らしかった。そんなあなたを壊したくなかった……」
「……何だ、罪って」
「イシカワマリカ。覚えてない?」
「イシカワ……?」
「同じサークルの女子。よく学食に行ったりしたね」
「……石川真理華。思い出した。今まで忘れてたのが不思議だ。そういえば、あいつ、最近見ないな。何かあったのか?」
聞きながら、男の手は震えていた。知ってはいけない。思い出してはいけない。でも、女の答えを待っている自分がいる。
「死んだよ」
女は眉一つ動かさずにそう言った。
「私たちが、橋から落とした。合宿の日。私たちが付き合ってるのをたまたま知ってからかってきた彼女と話していて、気付いたら口論になって、もみ合いになって……。彼女、水に落ちた。石に頭を打って、即死だった」
女は水面に石を投げた。一度跳ねたのち、小石は浮かんでこなかった。
「あなたは呆然として、何が起きたか理解していなかった。だから私、救急車を呼んで、嘘をついた。彼女は足を滑らせて落ちましたって。他に目撃者もいなかったからね。サークルのみんなも、心配してくれたよ。怖かったでしょ、って。怖かったよ。人を殺しちゃったんだもの」
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