日本に散りばめられた素粒子たち

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  俺はまた母とけんかした。中学3年に上がった俺は日に日にけんかの頻度が上がったと自負している。今日も母とは一言も話さずに学校に行く。  学校に着くなり午前から16時くらいにかけて授業を受けてからテニス部へ行く。そこには去年1年間顧問をしていた田原先生がいた。 「久しぶりですね」 「町田君じゃないの」 「どうしたのですか」 「仕事の関係で学校に。ついでにテニス部がどうなっているのか気になっちゃって」  この学校は私立中学であり、通信教育にも力を入れている。田原先生は教師を辞めてしまったにもかかわらず度々この学校を訪れるのは、コンピュータ関係の知識にも精通しており、信用のおける人物としてコンピュータ関係のメンテナンス等を任されていたためである。 「そうだ。私の友人でテニスの相談にうってつけの人がいるんだけど」 「もしよかったらあってみる。カウンセラーにも適している人だから進路の相談にも乗ってくれると思うよ」  普段ならこの類の話は何か裏があるのではないかと考え断るのだが、元教師で顧問の、ましてや信頼のおける田原先生の紹介であれば一度会っておこうと思った。  後日田原先生と俺とその田原先生から紹介してくれる女性の三人で会うことになった。カウンセラーと聞いて正直あまり面白いことを言わない人なのかなというイメージを持ったが、話してみるとテニスのことだけではなく今はまっているゲームの話も通じているようで楽しい会話ができた。帰り際に名刺を貰った。そこで俺は初めて彼女が皆川美央という名前だと知った。  それから一緒に会って話をするようになった。何回かあった後の雨の降っていた日だった。俺は相変わらず朝母とけんかしたまま待ち合わせ場所へと向かった。しかし皆川さんと話していると楽しい気分になってけんかのことを忘れていた。 「あなたは本当は私のお腹から生まれれてきた子供なの」  俺は皆川さんの脈絡もない話の展開にぽかんとした。普通であれば冗談だと一蹴したり聞き流すような話だろう。しかし、皆川さんの話はなぜだか真剣に聞いてみようという気持ちになった。  そこで俺はたくさんの話を聞いた。 「マザープロジェクト」  一人の優秀な女性から各方面で優秀な男性を集め、数人の優秀な遺伝子を持った人間を生み出す。子どもが生まれなかった体を持ってしまったが出産願望を持つ夫婦の下で最先端の妊娠錯覚技術を使い、その夫婦の下で育てる。  そしてその子どもがある程度の年に達すると真実を打ち明けその子どもを引き取るのだという。 「ごめんなさい。頭が混乱しています。状況が整理できません」  前に精子バンクで優秀な遺伝子を持った子どもたちが一クラスに集められ、そこで英才教育を受けた子どもたちがのちに大人になって世界を間接的に支配するというありふれた設定の映画を見た記憶がある。それは海外の映画であったが、その映画に出てくる英才教育を受けさせられた子どもたちの悲しそうな表情を思い出した。  家に帰るといつも喧嘩ばかりでいらだっているはずの母が、今日はなぜか笑顔で楽しそうにご飯を作っていた。 「明日も残さず食べるんだよ。」  俺が居間を出る瞬間にそう言った母の顔が頭から離れないかった。  後日俺は皆川さんと会いに行った。皆川さんのもとへ行くのかという問いの答えも伝える目的があった。 「皆川さん、あなた本当に俺の産みの母なのでしょうか。」 「その母とマザープロジェクトを推し進めたい人たちに頼まれて子どもたちに声をかけているのではないですか。」 「その話は関係ないことでしょう。」  いつも優しくて冷静な皆川さんは少し動揺していた。しかし、この話をしている皆川さんは時折悲しそうな表情をしていたので、俺は皆川さんが自発的にこのようなことを行っていないのだなと感じた。 「俺にそんな遺伝子があるように見えますか。」 「あるよ。」  皆川さんは落ち着いた口調で言った。 「でも、すみません。あなたの元へはいけない。」 「どうして。今私の元へ行かなければ、莫大な富も地位もかなえたい夢もすべて手放すことになるのよ。」 「いいんです。凡人として生きる覚悟はもうできているので。」    俺は皆川さんの元へ行くことを断った。本能的には今この話を承諾すれば人生が変わることくらいわかっていた。しかしなぜだか説明できないが、心の中でモヤモヤした感情があった。だから断った。  帰り際に俺は皆川さんに尋ねた。 「次のマザープロジェクトの子ども達のところへ行くのですね。」 「えぇ。」  そう答えた皆川さんの表情を僕はなぜだか気になっていた。
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