14人が本棚に入れています
本棚に追加
俺も結局、いい豆を買って美味いコーヒーを飲むくらいで、わざわざアフリカまで行って現地でコーヒーを飲もうとも思わない。
この一週間目に見えた混乱は起こっていない。総人口の三分の一が十四日くらい不自由なく暮らせる程度の備蓄はこの国にはある。期限が決まっているものだから、買い占めても仕方がない。平穏に暮らしたいのに争いなんかしたくない。ほそぼそと日常は再開され、俺のマンションの窓から見える公園に何組もの親子連れのが歩いていた。
ゆっくりとコーヒーを飲みながらテレビを眺めていると、様々なお祭りの情報が流れている。終末は楽しく過ごしたい。結局そう考える。新製品の体験会祭りなんかもよく企画されている。世間にまだ出ていなかったけど、頑張って開発した自社製品を使ってもらいたい、そんな企画。
『とても美味しいかったです。これまでになく飛び切り!』
『そう言って頂けて嬉しいです。僕の一生が報いられました』
このコーヒーメーカーもそんな企画でもらってきた。
そう、結局は最後をどう過ごすかなんだ。中途半端な時間でそう考える。
俺は好きな仕事をしていたけれど、十四日で成果が出るような性質のものではなかった。中途半端に完成しないよりは、好きなことをしたほうがいいかな。そう思って七日前に仕事をやめて、それから近所の公園や美術館をぷらぷら歩いた。既に管理を放棄された美術館は入り放題だ。高価な絵は何枚か持ち去られたようだけど、普段倉庫にしまわれている貴重な絵や珍しい絵がキュレーターの手によってたくさん持ち出されて、壁いっぱいに展示されている。
とはいえ俺は趣味もなくて家族もいなかったから仕事のない生活は誰とも顔を合わさない味気がなくて少し寂しいものだった。なんとなくこんな最後でいいのかな、とよくわからない気持ちになったから、なにかすることを探すことにした。
サークル活動が流行っている。怪しげなものもあるけれども、色々見ている間にイベントボランティアの募集を見つけた。これは市が主催のものだから怪しいものではないだろうと思って。
『一緒にランタン祭りを盛り上げませんか』
最初のコメントを投稿しよう!