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ボランティア参加者はその寺島さんと俺と七十代の瀬川さん夫婦だけ。
「私は結婚してこの街に来た時に最後の一回を見たことがあるのだけど、とても綺麗だったわ」
「そうそう、わしらの思い出なんだ」
「私は見たことはないのですが、市の皆さんからとても美しかったという話は聞いています。映像でも見たけれども実際に見てみたくなって。当時の資料を調べているととても美しいお祭りと評判だったようですね」
寺島さんは言葉を切って、遠くを眺めるように呟く。
「金子源次郎さんという方がこの街の伝統だから残すべきとおっしゃってて、GPSをつけて機器に回収させれば問題ないと詳細な実施計画付きで随分提案をされていたようなのですが、当時は反対派の環境団体の意見が強くて予算づけが難しかったようです」
「ああ、それ俺の爺さんです。駄目だったとしか聞いてなかったけどちゃんと活動してたんですね」
「えっそうなんですね。今から見ても十分納得できる資料で、どうして通らなかったんだろうと思うくらいです」
寺島さんは残念そうに首を傾けた。
それから色々話をして、資料として爺さんの撮った映像を提供した。ランタン祭りのサイトで公開したらたくさんの感想をもらえて、自分も映像があるぞというお便りがあった。それで広く募集したら、思いの外多くの映像が集まって、サイトがどんどん賑やかになっていく。そしてまた、それぞれの映像ついてずいぶん多くの感想が送られ、なんとなくモニタの向こうからランタン祭りへの期待と手応えを感じていった。
「たくさん増えそうですね、参加者」
「ええ。とても楽しみです」
寺島さんのこの微笑みは、なんだか心が温かくなる。
ランタンの追加を工場に依頼した。以前のランタン祭りではランタンは白無地のボックス型というのが定形だったけど、ランタンに絵がかけてもいいんじゃないかとか好きな形にしてはどうだ、今は3Dプリンタというものがあるのだしという話があり、事前に特殊ランタンの注文を受け付けたらなんと一万通ほどの申し込みがあって驚き、さらにランタンの注文を増やした。
俺は細々としたものが好きで、パズルとかゲームのデザインの仕事をしていたから、オリジナリティあふれる注文に触発されて、新しいデザインをいくつか考えて募集を追加した。自分のデザインしたランタンにも注文が殺到した。
仕事でマーケティングはするもののプロダクトデザイン自体は一人か多くても何人かで細々とやっていたから、こういう直接の意見が聞けて輪がどんどん広がっていく感じはとても新鮮で楽しかった。
それでこういった楽しみが広がるといいなと思って制作デザイン自体も募集してみることになり、サイトはますます賑わった。
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