【2000字掌編】夢の懸け橋は、僕らを繋ぐ

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 急ぐ人の群れに逆らい、霧島は歩道にとどまる。洗いたてのジーンズの裾が、水たまりで濡れていく。目の前を往来する車を眺めるうち、気弱になった自分に少し気分が沈んだ。  その時、向かい側の歩道を、軽やかに誰かが駆けていく。  風の色が見えたと思ったのは少女のセーラー服だった。運動選手みたいなショートカットで、遠目にも霧島には誰か見当がついた。 「守屋さん、元気だな。相変わらず……」  傘も差さず、濡れるのも気にせず、伸びやかな手足は羨ましいほど自由を謳歌している。  疾風のように少女が通り過ぎ、歩行者信号は再び青になった。横断歩道を渡り、肩を落とした霧島は猫背のまま店へ向かう。  すると、雨の路上に何かが落ちているのに気づいた。ラミネート加工されたカードだ。キーホルダーにつけていたものが外れたのだろう。裏に『がんばれ、愛』と書いてある。  霧島は、それが少女の名前であると思い出す。  記憶の隅に押しやった、くしゃくしゃに丸めた感情を広げる。  カードをハンカチで拭うと、霧島は丁寧にポケットにしまった。曇った心を吹き抜けた風に、晴れ間が覗いた気がした。
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