変な女

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変な女

松坂東吾は、もう、10年も家の二階に、引き籠っていた。 最愛の母は、10年前に死に、直接では無いが 母が死ぬ一因を作った父を、東吾は、憎んでいた。 弁護士をしている父は、毎日、朝早くから仕事に行き 帰るのは、いつも遅かった。 その父と、全く顔を合わせる事も無く、話をする事も無く 10年が過ぎ、東吾は28歳になったが、この生活が気に入っていた。 一人で暮らしていても、何の不自由も無い。 引き籠っていると言っても、父に対してだけで、仕事が無い昼間は スポーツジムに行き、運動不足も、ちゃんと解消している。 帰りには、スーパーにも寄って、食材も買って帰って、簡単な料理も作る と、言っても、やはり冷凍食品や、レトルト食品が、多かったが。 季節は、秋の終わりで、冷たい風が、吹き始めた頃 滅多に無い事だが、父が、午後3時過ぎに、早々と帰って来た。 どうしたんだろう?と思ったが、父は、誰かと一緒らしく 「さぁどうぞ、私の父が建てた家なので、かなり古いのですが」と、言い 「でも、綺麗ですし、随分広いんですね」そう答えたのは 女の声だった、女?父が、家に女を連れて来るのは、初めてだった。 東吾は、階下の話が良く聞こえる様に、部屋のドアを開けた。 父の「ここが浴室で、こちらがトイレです」等と、家の中を案内する声がする 普通の客では無い事は、明らかだった。 まさか、再婚する気なのか?東吾は、ちょっと慌てて、更に聞き耳を立てる。 「台所用品も、揃っていますね~私が使っても良いでしょうか」 「勿論です、何でも自由に使って下さい」そう言った父は 更に、洗濯機はここで、掃除道具はここに入っていますと 細々とした事まで、教えている、やっぱり再婚する気だ。 東吾がそう思った時、案内を終えた父は、その女と共に、車で出て行き その後は、いつも通り夜遅くに帰って来た。
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