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あれだけ、詳しく一階は案内していたのに、父は、二階の事も
東吾の事にも、一言も触れなかった。
女の方も、二階は?とは聞かなかった。
俺の事を、完全に無視している、そんな生活を始めたのは、自分だったが
ちょっと腹が立った、一体どんな女なんだろう、聞いた声は若々しかったが
もうすぐ60歳になる、父の相手なら、どんなに若くても、40代だろうと思う
母が逝って10年経ったから、もう再婚しても良いと思ったのか
もし、結婚式を挙げるとしても、俺は、絶対出席なんかしないからな
ベットに寝転んで、天井を見ながら、そう思う。
翌日、父はいつも通り、7時30分に家を出た。
東吾は、二階のベランダに、特注して掛けて貰った、屋根付き階段を降り
裏口に設置した、新聞受けから、新聞を取って来て
トーストと、珈琲と言う、朝食を食べる。
二階には、元々トイレは付いていたが、東吾は、一部屋をキッチンにし
小型のシンクを入れ、調理器具も冷蔵庫も揃えていたし
ユニットバスも、設置していた。
だから、一階に行かなくても、楽々と生活する事が出来たのだ。
東吾は、二誌取っている新聞を、隅から隅まで読む。
読む事に没頭していると、突然玄関が開く音がして
「おはようございます」と、大きな声がした。
昨日の女の声だ、親父の奴、鍵を渡していたのか
東吾は、ちょっと驚いたが、車が無いから、親父は居ないと知っている筈だ
なのに、誰に挨拶している?まさか、俺じゃ無いよなと
部屋のドアを少し開けて、階下の様子に耳を澄ませる。
女は「ルルルン、ルンルン」と、ハミングしながら、一階の全ての窓を開け
何やら、片付けている様だったが、直ぐに洗濯機の回る音がし
継いで、掃除機をかける音がした。
「おいおい、もうこの家に住む気なのか?」気にはなるが
そろそろ仕事の時間だった。
キッチンの隣の部屋が、東吾の仕事部屋だ、その部屋は、完全防音されていて
大きな作り付けの机には、パソコンが三台
壁には、沢山のモニターが設置されている
そこで東吾は、18歳の時から、ディトレーダーをして暮らしている。
母が死んだショックで、受かっていた大学には行かず
家で出来る仕事を選んだのだ。
すでに、父親の資産の何倍もの、金は手に入れている。
今は、少しでも儲けが出た所で、止めるという手堅い取引をしていた。
今日も、10万の儲けが出た所で、早々と止める。
時計は13時を回っていた「あ~腹が減ったな~」
東吾は、湯を沸かして、カップ麺を作り、立ったままで
ずるずると食べながら、何気なく、レースのカーテン越しに、庭を見る
物干し台に、布団のシーツやカバー等と共に
父のパジャマや、下着までが風に揺れていた。
下着まで洗わせるなんて、ただの仲では無い、やっぱり再婚相手だ。
ま、俺には、関係無いけど、二人で俺の事を無視するようだが
俺だって、今まで通り、無視してやる。
だが、この家からは絶対出て行かないからな。
食べ終わったカップを、ゴミ箱に捨てながら、東吾は、そう呟いた。
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