変な女

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料理の上手な人は、頭が良いと、何かで読んだ事が有る。 それが本当なら、脳天気にルンタルンタ歌っているルンタも 賢いという事になる、そんな事を思いながら、昼間のルンタを思い出した 東吾は、自分が使っている剪定鋏を、物置に置いて使わせようかと思ったが そんな事をすれば、自分がルンタを見ている事が、ばれてしまう。 考えた末、通販で買ったシャープナーを、物置の剪定鋏の傍に置いて来た。 その時、隣りの田村家に明かりが点いた。 「詮索婆さん、温泉から、帰って来たのか」東吾は、ちょっと顔をしかめた。 隣りの、田村和江と言うお婆さんは、何だかんだと話しかけては 相手のプライバシーに、首を突っ込みたがる。 東吾にとっても、ちょっと迷惑な人だった。 きっと、洗濯物を干したり、草取りをしている、ルンタを捕まえて 松坂家の内情を、あれこれ聞きだすに違いない。 父の事はともかく、俺の事は、何と言うのだろうか。 翌日、仕事の合間に、庭を覗いてみたが 洗濯物を干しているルンタに、気付かないのか、和枝の姿は無かった。 ほっとして、また仕事に向かい、その日の仕事を終えた。 家の中で、桃太郎の歌を「万々歳、万々歳、お供の犬や、猿、雉は 勇んで車をえんやらや」と、最後まで歌った、ルンタは 庭に出て、物置小屋に入った、今日も、草取りをするつもりらしい。 物置の中から「あれっ?」と言う声がした。 「おっ、シャープナーを見つけたか?」東吾は、耳を澄ませた。 ジャーコジャーコと、鋏を研ぐ音がする。 「やってる、やってる」東吾は、にんまりする。 研いだばかりの剪定鋏を持って、物置から出て来たルンタは 薔薇の枝に、鋏を当てた、枝は、スパッと切れた。 「お~~っ」ルンタは、喜びの声を上げ、家の中から 大きな、紙袋を持って来ると、パチンパチンと切った枝を、袋に入れて行く 伸び放題だった、薔薇の株は、三分の一ほどに切りつめられた。 「やるじゃないか」その仕事は、文句の付けようが無い、見事な物だった。 「あいつ、植木屋さんになれるんじゃないか」そう思った時 調子が出て来たのか、ルンタは、ルンルンとハミングしだした。 東吾は、慌てて『それは止めろ、隣りの婆さんに聞こえるぞ』と 心の中で焦る、その時「まぁまぁ、可愛いお嬢さんだ事」と ブロック塀の上に、顔を出したのは、その和江だった。 『ほら見ろ、言わんこっちゃない』 言ってもいないのに、東吾は、心の中で、そう叫ぶ。 顔を上げた、ルンタは「あ、お隣の田村さんですね、この度、こちらで 家政婦として働く事になりました、花梨と言う者です」 と、明るい声で挨拶をした。 「あいつ、花梨って言うのか」東吾は、ルンタの本名を知った。 そして、父の再婚相手ではなく、家政婦だという事も。 「花梨さん?名前も可愛いですね~」誰だろうという疑問に 即答してくれた花梨に、和江は機嫌よく、愛想を言う。
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