変な女

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「一昨日から、働く事になったのですが 田村さん、どこかへお出かけでしたか?お留守の様でしたが」 「はい、主人と一緒に、湯治に行っていたんです」 何時から働きだしたのかと、聞く前に知った和江は、そう言った。 「湯治ですか?良いですね~で、どこの温泉に?」 「今回は、00温泉に行って来ました」 「00温泉と言えば、温めの炭酸泉だと聞きましたが、どうでした?」 「それが、温めなので、長く入れましてね~湯当たりもしないで とても良かったですよ」 「まぁ、そうでしたか、私も一度、行ってみたいと、思っているのですが」 「是非行ってみて下さい、近ごろは、お若い方も、随分多いんですよ」 「そうですか、ご主人と一緒だなんて、お二人は、ラブラブなんですね 羨ましいです」「そんな、、」和江は、顔を赤くして 「五年前に、主人が倒れましてね、半身に、麻痺が残ったんですよ。 それには、温泉が良いと聞きまして、行く様になったのですが 一人で行かせられませんし、私は、付き添いと言うだけで」と 弁解する様に言っていると「お~い」と、夫に呼ばれた和江は 「じゃ、また」と、言って顔を引っ込めた。 ハラハラしていた東吾は、花梨の受け答えに、舌を巻いた。 「すげ~あの婆さんに、うちの事は何も聞かせずに、向こうの事だけを 喋らせちゃったよ」それも、何の違和感も無く、いたってスムースに。 あいつ、家政婦だったんだな、だから、五時半になると、帰って行くのか。 再婚相手では無いと知って、ほっとしたが、父は、なぜ今頃になって 家政婦なんか雇ったのか、しかも、あんな若い子を。 やっぱり、母によく似ているからかな~。 だが、父は、殆ど花梨と会う時間は無い、毎日、ルンタ、ルンタと 花梨が、歌っている事は知らない。 庭の手入れをしている事も知らない、知っているのは、俺だけだ。 東吾は、ちょっと、父に対して優越感を持った。 花梨の姿を見るだけで、毎日が楽しい、父の為に作っている 夕食を、こっそり食べる事も、いけない事をしている、子供みたいで わくわくする、そして、その旨さに、満足していた。 その日は、寿司揚げが安かったからと、山盛りの稲荷ずしが置いて有り 仏壇にも、供えられていた。 早速一つ食べてみる、酢の塩梅も丁度良く ふっくらと軟らかく煮えた寿司揚げは、甘辛さが、何とも言えない。 「絶品だ!!」東吾は、そう叫び、次々と、頬張る。 頬張りながら、母が、運動会や遠足に作ってくれていた事を、思い出していた「母さん」優しかった母の顔と、花梨の顔が重なる。 「あ、いけね、これ以上食べたらヤバイな」 東吾はそう言って、食べる事を止めた。 稲荷ずしは、もう五つしか、残っていなかった。
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