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「おい!あんた!!」
ベイリーは自分でも分からず、ローシの後を追い掛けた。
彼はまるでベイリーが追って来ると分かっていたような足取りで、声が聞こえると直ぐに振り向いた。
「やぁ、店主」
「ど、どういう事だ……?!」
最初から最後まで見ていたのだ、どうもこうもない。分かっている。だが、やはり信じられない。
「私の祖父がずっと持っていた手紙を、本来の持ち主の元へ届けただけだよ」
そうなのだ。それは分かる。だが、本当に?信じられない。
戦争は40年前の出来事。遺品整理をしていた最中に見つかった手紙。偶然か必然か、まるで信じられない。
何故、信じられないのか。
多分それはこの男が胡散臭いからだ。
マリアは人形に話し掛ける不気味な老婆ではあるが、自分でも言っていたように貴族だ。この田舎の領地を治めている。
領主の姉という事でそれなりの権力と財力を持っていた。料理店では呆けた老婆にしか見えないが、普段はその奇行からは想像できない手腕でこの地を治めているのだ、弟の領主よりも民からの信頼は篤い。
だからこそ、民は奇行を見て見ぬ振りで過ごしているのだ。
そんなマリアの元へ胡散臭い男が現れた。もしかしたら詐欺師かもしれないと疑うのも仕方ない事だ。
「信じられないという顔をしているね」
「あ、当たり前だ……40年前の手紙なんて……」
「あれが偽物だと?」
「……」
「君は善良な男のようだ、それともマリアの人徳か……」
ローシは初めて表情を動かした。面白そうに目を細め、唇を歪め笑った。
「一つ、話をしましょう」
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