第六章 君と一緒なら

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 ***  「相談役、どうしましょう」  矢野商会に申し出をしてきたのは、得意先の建設会社だ。後継者がいないので、今の社長の代で廃業になるのは避けられない。  でも、堅実経営で顧客もそれなりの数。できれば誰かに経営してほしい。そんな時、矢野商会を立て直しつつある直樹を見て、()いでほしいと頼んできたのだ。  「吸収でいいと言うんだから、悪くないと思う。  持ち直してきてるから、新事業で勝負を()けてもいいんじゃないか?  完全に(いち)からでないから、苦労は相当少なそうだし、多角経営は社長の希望だっただろ?」  頷いた。村谷商会のように、売り上げの柱を複数にしたい。その希望は正勝にも当然伝えている。  「そうなんですけど……まだ黒字もそれほどでないのでいいのかな、と」  玲奈が設計士なので建設業界に興味はあるが、まだまだ矢野商会は安心と言うには厳しい状況。大丈夫かと思ってしまう。  「物事にはタイミングというものがある。この時期にこういう申し出があるということは、勝負していいんだと思う」
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