第六章 君と一緒なら

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 正勝の言葉に後押しされて、直樹は建設業に進出することにした。  ただ、合併したからといって、簡単に二社分の売上が合算されるわけではない。  でも、資材を自社で準備できるので、その分、割引が可能になる。そして、社長以外の人間が全員、移籍してきたので、顧客開拓を営業に任せられる。それが大きかった。  二つの部門を抱えた矢野商会は、合併して数年後、経営危機を完全に脱した。取引先のゼネコン倒産を乗り越えて業績を回復させた直樹は、地元の商工会でも若手の有望経営者として注目されている。  正勝は他の経営者に自慢げに言っているらしいが、直樹は無関心だ。交流は大事だが、自慢に意味はない。  今でも直樹は自分で営業に回っている。油断すると、あっという間に経営危機になるのは、父親の件で嫌になるほど教えられた。  そして、直樹は建設部門を吸収した時、村谷社長との約束を果たした。  建築に関する機材の購入を村谷商会に依頼したのだ。ただ、すべてではなく、一部は地元業者へ注文している。  恩を返すのは当然だが、地元業者との良好な関係も無視できない。経営者として両立させる判断をするのは当たり前だ。
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