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「マジ?なんで?」
「コロナで暇だから。飲みにも行けないし」
いや、マジで暇なのよ。
「どこのサイト?それとも公募?」
「サイトだけど、恥ずかしいからそれは言わない。けど母さんが昔使ってるって言ってた『作家になりたい』、『読み書き』、『odaigatary』はちゃんと外してるよ」
「わかった。『ナイス文学』でしょ」
「言わねーよ!」
手元のお茶をゴクリと飲む。お茶は不思議だ。ものすごく実家感を与えてくれる。
「そう……なんで、書いてることだけを私に報告するの?単なる報告?」
さすが母さん。
「ぶっちゃけて言うと相談があるんだ」
「わかった。読まれない、でしょ。全員通るから、それ」
食い気味に被せてきた。俺の作品のPV数を知ってるんだろうか。もしくは、ほんとに全員通るんだろうか。でも、違う。
「いや、それじゃないんだ」
「じゃあ何よ」
よし、ぜひ聞いてくれ、先輩。
「うん。あのさ、あーゆーサイトでやっぱりおもしろい話書く人いっぱいいるじゃん? 伏線の回収やら会話のテンポ感やら、もはやプロじゃんて人」
途端に母さんは、少しだけ真面目な表情になって、軽くうなずいた。
「一方俺はさ、もうかれこれ半年くらい書いてるのに浅い文章しか書けないし、当然何の結果もでないし、最近に至っては昔の半分くらいのものしか書けてないんだ。創作って最高の趣味だと思ってたんだけどさ、うまくいかないってなると本当にキツいなぁって」
これは、本当にそうなのだ。書き始めた頃の方が伸び伸びしてた。最近たまたまサイトのコンテストで端っこの方に名前が載ったけれど、反応はよくなかった。型にハマったからだろうか。でも、俺は自分の作品が嫌いではないし、むしろ好きだ。だからこそ、キツい。
母さんは黙っている。色々と驚いているのかもしれない。さすがに。俺の問いは、何を聞いて欲しいのかが、そもそもぼやけている気がした。答えにくいだろうな。反応しにくいよな。
母さんは静かに口を開いた。
「私はね、少しだけあんたより書いてる期間が長いの。だからね、思うことを聞いてくれるかな」
「うん」
「創作なんてものはね、そもそもないの」
「は?」
真面目な相談のつもりだったのに、ポエムのようね反応に少しムッとしてしまう。それが伝わったのか、軽くなだめるように両手を開いて俺に見せてきた。
「まぁ、最後まで聞いて。きっと、一から自分で作ってるものなんて、ない。みんな自分の一部、自分自身の物語を切り取ってるものだと思うんだ。形を削ってる。分身みたいなものなの」
え、何の話だ、と俺の眉と眉が近づく気がする。これまたポエムのようだ。
……けどちょっとわかる気もする。確かに自分の書いたものが、どんなに浅くても嫌いにはなれないのは、自分の一部だから、と思えば納得だ。
「創作者ってのはそういうものだと思うの。私たちはさ、気楽な趣味だから削られる範囲が少ないのよ。一応聞くけど趣味だとは思ってる?」
「あ、あぁ」
「もし、仮にね? これでご飯を食べてる人だとしてみてよ。売り上げとかが芳しくなかったら、自分の一部を否定されて、しかもご飯まで食べられないし、生活できないのよ。私はこれが趣味でよかったと思ってる」
何も返せない。俺の反応をうかがいながら母さんは続けた。
「作家になりたい?売れたい?」
問いを受けて、俺は慎重に言葉を、でもストレートに言う。
「いや、全くない。でもさ、自分の納得行くものを書いてみたい。んで、それがやっぱり大なり小なり評価されたいとは思う。だから、なんだか悩んでる。焦ってる」
「私もそうだよ。ほぼ一緒。どっちかと言うと私のが緩いよ。ただ書きたいから書いてるだけ。それだけなの。いいじゃん、趣味であることに感謝しようよ。ゆっくりがんばろう。意外と誰かが成長を見守ってくれてるかもよ、顔の見えないファンがいるかもしれない。あと私より先におっきな賞取らないでよ」
母さんはまた笑ってる。言うとおりだ。書きたいから書くだけ。そして、それが少しずつでもコマシになればいいだけ。そもそも、こんな趣味に一喜一憂できるだけで、俺はかなり幸せなのかもしれない。
少しだけ、前を向こうと思えた。俺も母さんと一緒に笑う。
「おう、ありがとう。聞いてくれて楽になったわ。ちょっと俺も気軽に頑張るわ」
「最後に一言だけ言わせて」
なんだい、人生の先輩。
俺は今日、本当の意味で母さんを尊敬できた。すごいや。
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