2人が本棚に入れています
本棚に追加
ただいま、と実家のドアを開けながらぼんやり言う。廊下や壁は、半年来てないだけで、少し年老いたような気がする。
「おー 。早かったね。お帰り」
「うん。父さんは?」
「あんたが久々に帰ってくるからって、いつもよりちょっと遠いスーパーにお酒とか買いに行ったよ」
知ってる。いや、予想通り。母さんがやかんからお茶をいれてテーブルに置いてくれた。
「いやー、聞いてよー。また、だめだったんだよー」
母さんは顔を合わせる度に、趣味のweb小説のコンテスト結果を報告してくる。学生時代は推理小説研究会に所属していて、少し小説を自分たちで書いたりしていたらしい。そして、俺が大学生くらいになった頃から、時間ができたのかまた創作を開始した。webで気軽に投稿できるのが魅力で住み着いたそうだ。
いつも結果とともに、大まかなストーリーは教えてくれるのに「恥ずかしいから」と言って、父さんと俺には頑なに読ませてはくれなかった。
「母さん、実は俺も聞いて欲しい話があるんだ」
「お、何。彼女の悪口?」
「なんでそうなる。いや、おもしろい話とかじゃないんだけどさ」
「あんたの話、おもしろかった試しなくない」
「腰おるのやめてくれ」
少し静かになる。途端に緊張してきた、いや、今回の帰省の目的は、これだ。これを母さんに言うために来たんだ。
「実は俺も小説書き始めたんだ」
実際には見たことないから想像なんだけどまるで“鳩が豆鉄砲を食ったような”顔を母さんはしている。
最初のコメントを投稿しよう!