序章

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序章

ざわざわとした大学の食堂の四人席で、私はうとうとと船を漕いでいた。 昨日はよく眠れなかった。 ――いや、ただ眠れなかったわけじゃない。 と、額をピンと弾かれる指先に、少しだけ意識が覚醒する。 「そんなんじゃあー、八宝菜の中に顔面から突っ込んでいっちゃうよー?和香(のどか)ちゃあん」 にやっと意地悪気に笑うその赤髪ギャルは、諸悪の根源だというのに、酷く楽しそうに笑う。 するとそれに気付いたように、その人の隣にいた女――(まり)が、私の頬をつんつんとつついてくる。 「どしたぁ、のど?寝不足?」 「和香、眠りたいなら食べ終わってからにしなさいよ」 私の隣に座っている(みどり)までもが、私の心配をし始める。 「あーしが、あーんてしたげよっかぁ?ふふっ」 自分のことを、『あーし(あたし)』と呼ぶこのギャルが……ギャルなのに、ギャルだったはずなのに……と、働かない頭で昨日のことを思い出してまた眉間に皺を寄せる。 諸悪の根源の言葉を無視して、八宝菜のゆで卵を箸で持ち上げようとするけれど、つるんと滑ってキャベツの上に逆戻りする。 私の心は早くも折れそうだった。
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