三章 3

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『感情を人と比べない、人の気持ちを勝手に疑わない、自分を否定しない』 『和香の本当の気持ちは、どこにあるの?』 背中を押してくれた緑の言葉を思い出す。 比べない……妹だろうが、他の誰が相手だろうが、比べない。 私は、私で。 気持ちを疑わない……佐藤の気持ちがすぐに離れていっちゃうとか、自分と釣り合わないだとか。 そういうのは悪い想像でしかないし、それに佐藤を疑ってることになる。 自分を否定……しないのはちょっと、今後の自分に期待する、として、頑張るから。 すぐにはこんな自分は変えられないから。 ――――私の気持ちは? もう、こんなにもはっきりとしている。 だったら迷うことない、逃げることない。 佐藤は今、ぶつかって来てくれてるじゃない。 それに向き合うタイミングは――今、でしょう? 「……ひょう」 「――え」 「氷」 言い慣れないその名前を口にして、私も恐る恐る、佐藤の……氷の背中に手を回した。 ピクリと反応するその体は、また私をキュッと強く抱きしめて、深く息を吐き出す。 「和香」 「うん」 「俺、和香の男になりたいんだけど」 「……っ」 込み上げてくる、なにか。 期待と、喜びで、体の奥底からゾクリと湧き立ち、鳥肌が立つ。
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