三章 3

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どくどく、高鳴る心臓の音は、聞こえていないだろうか。 熱くなる顔は、抱きしめられているから、見られはしない。 けれど私も……その氷の顔が、見えない。 「のどか」 優しい声で、求愛してくるような、甘い声。 「俺をあげるから、和香をちょーだい」 首をすりすりと擦られると、簡単に頭の中が真っ白になる。 欲しい、欲しいと思ってしまう。 いや、いいんだ、欲しくなって、いいんだ。 自分のかけた呪いは、自分で解かなければ、前になんて進めないのだから。 「私も、ほしい」 「……っ」 「氷が……その、うわっ」 痛いくらいにぎゅーぎゅーと締め付けられる腕に、呼吸することも苦しくなる。 ばか力、あくまで男の力なんだ、私が勝てるわけもない強い力。 いや、戦っているわけ、では、ないはずなのだけど。 「もうダメ、好き。和香が大好きで俺溶ける」 「溶けるの?」 「溶けるから、和香も一緒に溶けて」 なんて無茶言いやがる。 なんて心の中でツッコミを入れている間に、首筋にきゅっと吸い付かれていて、その頭を離そうと藻掻く。 前言撤回、私たちは戦っていたのかもしれない。 ちょっと待って、今首に何をしたんだこいつ。
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